2014年12月

「たとえ世間で名盤と讃えられてきたものだろうと、長年駄作と罵られてきたものだろうと、私が今初めて聴いたのであれば、それは私にとって新譜なのである。」

2014年現在「旧譜」として扱われているアルバムのうち、筆者が今年初めて聴いたものから10作を選び、レビューを書きました。
「2014年ベストアルバム」番外編としてお楽しみください。

※対象作品・・・2013/12/28より前に発売された、あらゆる媒体のアルバム。
※今回は特に順位は付けていません。
※連日の更新で筆者のHPは既にゼロになっているため、今回のレビューは極めて簡素になっています。ご了承ください。

【2014年ベストアルバムの記事一覧】

Vol.1 VOCALOID/UTAU20選 ・・・ 2014/12/19(金)公開
Vol.2 同人音楽10選 ・・・ 2014/12/20(土)公開
Vol.3 サウンドトラック10選 ・・・ 2014/12/21(日)公開
Vol.4 ロック・ポップス6選+電子音楽6選 ・・・ 2014/12/23(火)公開
Vol.5 今年出会った旧譜10選 ・・・ 2014/12/24(水)公開



植松伸夫 / PHANTASMAGORIA

リリース: 1994/10/26
販売: Amazon.co.jp


作曲家・植松伸夫初のソロアルバム。FFの曲も1曲ひっそり入っているようだが(しかもそれなりにレアなトラックらしい)、自分のおすすめは1曲目「雨の日、子供たちは」等の語りが入った曲。ジャケットのような寂寞な光景に灯る、生命の明かりのようなぬくもりを感じた。職業作家としてのイメージを大きく覆す、極めてアーティスティックなアルバムだ。あと、ジャケット撮影にかなりお金をかけていそうなところにも時代を感じる。



深水チエ / 花の涯

リリース: 2010/04/15
販売: Amazon.co.jp


同人音楽を中心に活動する歌手・深水チエの商業流通ミニアルバム。坂口安吾の小説「桜の森の満開の下」をベースに、7曲の物語音楽を紡いでいる。妖艶なボーカルに色気のあるピアノはまさに極上の味わい。不勉強ながら小説は未読なのだが、このアルバムのサウンドからも「ひと繋がりの物語」を感じ取ることが出来た。きわめて密度の高い、どろどろとした歌からは、もはや自他の境界線を取り払ったアンビエンスすら見て取れるのである。酒と一緒に是非。



bermei.inazawa / SoulS

リリース: 2004/02/21


あのbermei.inazawaの同人初期のベストアルバム。前々から存在は知っていたのだが、いかんせん10年も前の同人CDなので入手経路が限られており、いざ見つかってもプレミアが付いていたため手が出なかったのだが、ここ最近は中古価格が(気持ち)下がったので思い切って購入。「コンピューターおばあちゃん」「翼を下さい」「ヒポポタマス」等、イナザワ同人の代名詞とも言える超個性派カバー曲も入っている。初のオリジナルアルバム「/Campanella」からも数曲入っているが、こちらは現在本人によるデータ販売が始まっているので持っていないひとは公式サイトへGOだ。企画モノの合作CD等、本人名義のCD以上のレア盤からもきちんと収録されているため、結構かゆいところまで手が届くのである。



上原ひろみ / SPIRAL

リリース: 2005/12/27
販売: Amazon.co.jp


恥ずかしながら今年になってようやく上原ひろみを聴き始めた。中でも特に気に入ったのがこの1枚。ツ◯ヤにもジャズカテゴリに置いてあるため、どんなジャズかなと期待して聴いてみたらプログレじみパワフルロックだったでござる。あれおかしいな、バンド編成はジャズのはずなんだけどな・・・。



高木正勝 / タイ・レイ・タイ・リオ

リリース: 2009/06/17
販売: Amazon.co.jp


知っているひとは知っているであろう、高木正勝の文庫本付きオリジナルアルバム。その文庫本とは、このアルバムで題材としている各文明の神話・民話を蒐集した「タイ・レイ・タイ・リオ紬記(ちゅうき)」である。芸術人類学と神話学の大学教授・石倉敏明による監修なので「本物」である。



上野耕路 / ファンタジックチルドレン O.S.T. ~ギリシアからの贈り物~

リリース: 2005/01/21
販売: Amazon.co.jp

アニメ自体は結構前に観ていたのだが(名作である)、サウンドトラックの3曲目「べフォールの子供たち」が名曲であるとの評判を今年に入ってから聞いて入手した。サントラとしては異例の7分48秒もの長尺でじわり、じわりと不気味な情景を映しつつも、チェロとピアノの美しい音色に釘付けになってしまい、やはり素晴らしい曲であった。主題歌「Voyage」等のボーカル曲の歌の部分をチェロ独奏が担当するトラックもまた美しい。特にグッと惹かれる曲ではとりわけチェロが印象に残る結果となった。チェロは好きなので個人的には何の問題もない。




小西香葉・近藤由紀夫 / エルフェンリート Original Soundrack (Blu-ray BOX盤)

リリース: 2012/12/19
販売: Amazon.co.jp


ニコニコ生放送の一挙放送を観終えた直後、ほぼ衝動的に買ったブルーレイ・ボックスになんとサウンドトラックCDが付いていたので驚いた。もはや伝説の主題歌「LILIUM」がアニメの歴史に残る名曲であることは今更言うまでもないことだが、それ以外のBGMもかなり聴き応えがあり特典にしておくのが惜しく思えた。なお、「LILIUM」にフルバージョンは存在しないようだが、作曲者のユニット「MOKA☆」のアルバムにはセルフカバーという形で長尺のバージョンが収録されているらしい。



London Philharmonic Orchestra / The Greatest Video Game Music

リリース: 2011/11/8
販売: Amazon.co.jp


世界有数のオーケストラ、ロンドン・フィルがゲーム音楽を演奏した!日本のゲームといわゆる洋ゲーが半々で収録されており、どれも名演なのだがやはりそれぞれの曲の作りの違いがよく見えてくる。日本のゲームはヒーローもののファンタジーに相応しい勇ましくキャッチーなメロディ、洋ゲーは戦争ものが多いためか荘厳で空間重視の曲が多い。それぞれのプレイヤーがゲームに求めているものの違いが表れているのだろうか。



桜庭統 / What's Up?

リリース: 2013/04/10
販売: Amazon.co.jp


ゲーム音楽家・桜庭統のオリジナルアルバム。前年に「after all」というアルバムを極少量頒布しており、そこに未発表曲を追加して全国発売したものだ。形式美と勢いを両立させたプログレッシブ・ロックで満ちており、桜庭統の音楽に求めていたもの全てが詰め込まれた名盤である。サントラもいいが、個人的にはオリジナルアルバムの方が好みかもしれない。



ぱっちりひつじ / ゆめにっき①

リリース: 2012/09/22
販売: ヴィレッジヴァンガード通販


2014年秋のM3で購入。男女ツインボーカルとイラストレーターを含む7人の大所帯バンドだが、活動コンセプトが面白い。この1stアルバム「ゆめにっき①」は、すべて実際に見た夢をモチーフとしている。それを時におどろおどろしく、時にドリーミーに音楽にしたためているのだが、基本となる音楽性が粘度の極めて高いプログレッシブ・ロックなので最初から最後まで非常に濃い。せっかくオリジナルなのだし、委託販売やら配信やらでもっと広く売り出せばいいのにと思いつつも、こうした音楽を「発掘」した時の喜びもまた捨てがたいものがあり悶々としてしまうのは性なのだろう。







旧譜といいつつ10年代のアルバムが多く、20世紀のアルバムとなるとノビヨしかなかったところに、普段の自分のレパートリーが表れているようでなんだか気恥ずかしい限りである。

今年リリースされたポップス・ロック、あるいは電子音楽のCDから6枚ずつ選び、レビューを書きました。

※対象アルバム・・・2014/01/01~2014/12/19までの間にリリースされた、あらゆる媒体のアルバム。
※「Vol.1」「Vol.2」「Vol.3」の対象外、つまりVOCALOID/UTAUを用いていない、同人流通でもない、サウンドトラックでもないアルバム。
※なぜ6選みたいな中途半端な数になったのか・・・各10選しよう→候補数が他記事より少ないのと書き疲れたのとで各5選にしよう→年末に各カテゴリで今年有数の名盤が見つかった→各々+1して6選にしよう(イマココ)

【2014年ベストアルバムの記事一覧】

Vol.1 VOCALOID/UTAU20選 ・・・ 2014/12/19(金)公開
Vol.2 同人音楽10選 ・・・ 2014/12/20(土)公開
Vol.3 サウンドトラック10選 ・・・ 2014/12/21(日)公開
Vol.4 ロック・ポップス6選+電子音楽6選 ・・・ 2014/12/23(火)公開
Vol.5 今年出会った旧譜10選 ・・・ 2014/12/24(水)公開



 
【電子音楽】 (6) 高木正勝 / かがやき

リリース: 2014/11/19
販売: Amazon.co.jp


映像作家でもある音楽家・高木正勝による2枚組CDアルバム。1枚目はオリジナルアルバム、2枚目はジブリの記録映画「夢と狂気の王国」等のサントラ仕事をまとめた構成になっている。氏は前作「おむすひ」にて、世界中を旅して出会った人々と一緒に、自らの"Light Song"という曲を歌って記録し、全10トラックに及ぶそれを全てアルバムに収録している。高木正勝にとっての音楽とは、旅行者にとっての写真のようなものなのだろう。出会った人々との思い出を写し、その人そのものを音楽にする。氏の音楽にとって欠かせない要素が「人間」、それも人種や文化の違いなど意にも介さぬ「人間の魂」なのだ。今作「かがやき」において記録された魂のひとつが、氏が引っ越した日本の田舎で知り合った97歳の老婆「しづさん」。この方の歌を聴きながら、高木正勝が音楽を書き、残す理由というものは、他の数多の作曲家とはまた違うものなのだろうなという思いにふけるのである。ジャケットイラストおよびブックレットの絵本は、絵本作家・さとうみかを氏。これも前作に引き続きのコラボレーションとなる。そこに描かれる世界は、きわめて純粋な自然礼賛。宗教色が微塵もない綺麗な憧れがそこにはある。私達の暮らすこの星と一体化したような、おおらかな想像力に満たされる。これほど贅沢な疑似体験にはついぞお目にかかれない。この絵本に触れるためにも、このアルバムを手に取ることが心の糧になるものと期待している。なお、高木本人による特設サイトに、このアルバムが出来るまでの経緯が細かく書かれている。余談だが、このアルバムは当初10月にリリースされたのだが、ブックレットにミスがあったとのことで、なんとフラゲ日という土壇場で発売日を延期している。筆者は10月にフラゲして以来ずっと愛聴しているので、このアルバムとの付き合いが人より1ヶ月ほど長いのはちょっとした自慢である。人生何が起こるかわからない。このレビューをお読みになった貴方も、もし買うつもりのCDがあるなら早めに予約しておくと良いだろう。



【ロック・ポップス】 (6) IMERUAT / Propelled Life

リリース: 2014/02/12
販売: 公式ストア / タワーレコード
配信: iTunes Store


ゲーム音楽で著名な作曲家・浜渦正志のユニットによるミニアルバム。センスは感じるが何ともつかみ所のない1曲目「TeNiOe」や、浜渦史上ぶっちぎりでポップな3曲目「Fei Fei Fei-Propelled」等、”ストレートにカッコイイ浜渦”を期待すると少し肩透かしを食らうアルバムかもしれない。自分は2曲目「N-Chart」のアレンジがかっこ良かったために購入したのだが、なんとアレンジが別人だったため別の意味で肩透かしだった(といっても鈴木光人の仕事なのでクオリティは随一)。・・・さて、ここまで欠点を挙げつらねてなぜ6選に入れたのかというと、この肩透かし込みでも作品を大いに楽しめたからである。特に最後の6曲目「イメルア体操第四」は、浜渦節全開のピアノをバックに創作ラジオ体操を踊るというキテレツなMVが衝撃的で、キャッチーさを押し出したアルバム像とこれまでのカッコイイ浜渦像のどちらも立てた秀逸な作品だった。これはクール&エスニック全開の1st Album「Black Ocean」(名盤!)では出来なかったアプローチだろうな、と素直に思った。念の為に言っておくと、このアルバムはAmazonには最初から卸されておらず、IMERUAT&浜渦正志公式ストアやタワレコ等で購入できることを付記しておく。



【電子音楽】 (5) Flying Lotus / You're Dead!

リリース: 2014/10/07
販売: Amazon.co.jp(国内盤)


初めてこのアルバムの特設サイトを見た時の自分「( ゚皿゚)なんだこれええええええ!!!!」→初めてこのアルバムをフルで聴いた時の自分「(;゚Д゚)な・・・なんだ、これ・・・。」→現在の自分「・・・なんだこれ・・・」つまり何が言いたいかというと、最低でも10周はしているこのアルバムについて、評価はおろか説明さえ出来ない状態がリリースからずっと続いているのである。まずジャンルが分からない。電子音楽の6選には入れたものの、これは電子音楽であると主張する自信がちょっとない。どこかでフリージャズが云々と書いてあったのを見て、これはジャズの一環として捉えることも出来るのかーと感心したのがつい1,2週間ほど前。2,3枚前のアルバム辺りではブラックミュージックの括りで語られていた記憶もあるが、少なくとも今回の作品がその文脈にあるとはとても思えない。「死」を全体のテーマに据えたアルバムだが、よくありがちな”終わりとしての死”ではなく”(彼岸の)始まりとしての死”を表現したものなのでまず前例が思い浮かばない。生と対比した上での死ではなく、そこには死しかない。もはや生者が言葉で定義すること自体が無理なのであろう概念を音楽でやってしまったというのだから恐ろしい。もはやこのアルバムの音楽ジャンル自体が「死(DEATH MUSIC)」である。そして、曲に理解が追いつかなければ、絵にも理解が追いつかない。日本の漫画家・駕籠真太郎による作品群は(寡聞にして知らなかった)、何とも繋がっていないスタンドアローンな概念としての「死」を表現している。と、こうしてもっともらしい説明は出来るのだが、理解することを無意識に拒否しておりそれ以上先へ進めない。このイラストレーターの目には、人間がこうも物質的に映っているのかと恐怖を覚える。かつて生命体であった物質が、あたかも未だ生命を維持しているかのように振る舞うその絵は、モノに意味を与えずにいられない大多数の文明人の理知的思考へのハッキングを試みる。そこに意味などないのに、振る舞いによって仮初めの意味を与え、与えた上でそれを破壊する在り方はまさに、長谷敏司の唱えた「アナログハック」ではないか。聴覚と視覚を経由して何もかもを無意味・無価値のものと思わせる、おそるべきパッケージである。



【ロック・ポップス】 (5) やなぎなぎ / ポリオミノ

リリース: 2014/12/10
販売: Amazon.co.jp


デビューアルバム「エウリア」から1年半を経てリリースされた2ndアルバム。正直、聴いてかなり驚いた。1stはシングル曲に好きな曲が多かったものの、アルバム曲はどうも散漫として印象に残らなかった。しかしこの2ndは段違いだ。すべての曲の物語がスッと伝わってくる。おそらく曲自体の出来が良くなっただけでなく、曲順も前作以上に練られているのだろう。ジャンルもハードロックや歌謡ロック、本格的なエレクトロニカに童謡風とバラエティに富んでおり、前作で感じた退屈を今作では一切感じなかった。15曲という大ボリュームながらリスナーを疲れさせない、良質なエンターテインメントだ。ちなみに、アルバムの1曲目と15曲目はアルバム全体の導入とエンディングなのだが、これは作詞作曲と歌だけでなく、編曲・打ち込みもやなぎなぎ本人によるものだ。やなぎなぎは現在もAnnabelとの同人サークル「binaria」で活動している生粋のDTMerでもあるのだ。編曲や打ち込みまで出来るシンガーソングライターというものは、ちょっと探したくらいでは見当たらない逸材であると言えるだろう。そして、このアルバムの大穴は2枚目のカバーアルバムだ。6曲収録で、最初の1曲目が池田綾子「プリズム」のカバー。名曲として知られる、アニメ「電脳コイル」のオープニング主題歌だ。アレンジ担当はあの保刈久明だというのだからもうたまらない。この1曲のためだけでも高い限定版を買う価値がある。そしてこれ以外の曲も良いアレンジがなされているのだが、注目すべきはそのレパートリーの広さだ。先述の池田綾子のほか、カバーした曲はCooRie「センチメンタル」/小沢健二「流星ビバップ」/小川七生「月灯りふんわり落ちてくる夜」/中川晃教「セルの恋」/キリンジ「冬のオルカ」と、やなぎなぎ自身が源流としているであろう曲が集められている。一見無造作に見えるセットリストだが、そのすべてにゲスト等の良いアレンジが施されているため退屈しないし、何より普段聴かないカテゴリの曲に触れる良い機会でもある。そして、「どうせアニソンアーティストだからアニソンばかりだろ」と舐めてかかっている人にこそ、このカバーアルバム付きの限定版をおすすめしたい。そのアニソンのチョイスこそが、音楽好きにとってもグッと来るものばかりだからだ。最後になったが、このアルバムの限定版の仕様は非常に豪華だ。メインとなる15曲入りアルバムと6曲入りカバーアルバムだけでなく、ライブBD/DVDも入っている。しかも公演1本が丸ごと入っている。恐縮ながらBDはまだ観ていないのでレビューは控えるが、今出せるもの、今やりたいことを出し惜しみせず詰め込んだパッケージには、サービス精神の他にも、リアルタイムで活動しているアーティストとしての意地を感じ、アーティスト本人に対する好感度が大いに上がる結果となった。



【電子音楽】 (4) mergrim / Hyper Fleeting Vision

リリース: 2014/04/14
販売: Amazon.co.jp


エレクトロニカに叙情性と幻想性をふんだんに盛り込む作風の作家・mergrimの2ndアルバム。2ndであるからには当然1stとの比較が入るのだが、料理に例えて一言で表現するなら「味も栄養価も格段に向上した」。1stと2ndに共通するものとしてまず挙げられるのは、色の濃淡のみで構成された抽象的なアートワークだろう。1stは青系、2ndは赤系の色を軸としており、流れるような綺麗な音と併せてあたかも風景画のようなアルバムとなっている。青の1stは流れる水、赤の2ndは燃えるような紅葉をそれぞれ連想させるのだが、2ndの曲は、1stではあまり感じられなかったパワフルさが感じさせる。ビート部分は抑え目で王道エレクトロニカのそれなのだが、ストリングス等高音を担当する楽器がとにかく前に出て来てメロディの華を次々と咲かせる。メロディを担当しない各種サウンドエフェクトでさえも(正式名称は何だったか…)、時に主役を張ってリスナーをドキドキさせてくる。これをいかに使いこなすかがエレクトロニカの良し悪しを左右することは、普段からこのジャンルを聴いている人には説明するまでもない事実だろう。曲構成は比較的堅実ながらも、そのサウンドメイクがとても派手で華やかなのが今作の特徴だ。であるにもかかわらず、曲が悪い意味でノイジーにならず綺麗なままでいるのは、ひとえにサウンドエフェクトの配置の絶妙な腕前と、作曲する上での引き算の巧さが理由だと筆者は考えている。良いエレクトロニカというものは、聴いていて心がざわつくものであり、静かな曲展開の中で少しずつ、しかし確実に心の中に火を灯すものなのである。このアルバムは、今年聴いたエレクトロニカの中でも特に筆者を熱くさせてくれた、極上のエレクトロニカだ。



【ロック・ポップス】 (4) ササノマリイ / シノニムとヒポクリト

リリース: 2014/10/15
販売: Amazon.co.jp


ボカロP「ねこぼーろ(nekobolo)」が自らマイクを取った、初の商業流通アルバム。タイトル曲「シノニムとヒポクリト」を含む新曲のほか、VOCALOIDリスナーにとってはお馴染みの「戯言スピーカー」「自傷無色」等もアレンジされている。ボカロPが自分で歌うということに対して、これまでボカロ曲を聴いてきたリスナーの反応は様々だろう。同じ立場にある自分の素直な感想は「ボカロより合ってるとは言わないまでも、この方向性はアリだ」。初音ミクという女声ボーカルから男声ボーカルへ移る違和感は多少あったが、主張しすぎない歌声、とてもマイルドで繊細になったサウンドは、これまでの曲にあった「寂しさに寄り添う優しさ」を全く失っていない。むしろサウンドに関しては、ポストロックとエレクトロニカのいいとこ取りをして綺麗に消化しており、かなり好みだ。またアルバム曲のMVについても、「シノニムとヒポクリト」「戯言スピーカー」の2曲ではマッチ箱をモチーフにしたハンドメイド感あふれるぬくもりを持っていてとても心地が良い。押し付けない優しさで、リスナーの持つ何らかの「傷」に触れてくる。この微妙な心地よさをさらっと表現されてしまうとたまらなくなる。なお、アルバムの配信先にSpotifyがあったのは、VOCALOID出身者のアルバムとしては新しいという印象を抱いた。



【電子音楽】 (3) Mili / Mag Mell

リリース: 2014/09/17
通販: Amazon.co.jp(初回版/通常版)
配信: iTunes Store


コンポーザーのYamato Kasaiとシンガーのmomocashewの2人ユニットから始まったMiliが、ベースとドラムを迎えてバンドとなり、更にはデザイナーをも正式メンバーとして迎え入れた結果女子力・・・ではなくビジュアルを含めた総合力を高めてきている。YouTubeやTwitterでコンスタントな活動を続け、ついに自身のレーベル「Saihate Records」を興してリリースしたのがデビュー・アルバム「Mag Mell」だ。どうやらこのマグ・メルという言葉はケルト神話において「死者の国」を表すらしいが、地獄というよりはむしろ天国を指し、明るい光に満ちた世界を示すそうだ。先日のライブイベント「光と闇の音楽祭 Vol.1」において自らを「光」になぞらえたMiliとの音楽性に相応しいタイトルといえよう。実際、作曲を手がけるKasai Yamatoの作風もまさに明るさや神聖さを感じさせるものであり、賛美歌のような美しいコーラスと、喜びを全身で表したかのように飛び跳ねるピアノは特に印象に残る。しかし宗教歌のような権威的な色合いは皆無であり、時にポップに時にロックに、そして時に電子音楽へのアプローチを強く押し出す。そのため、アルバム全体が強固なコンセプト(キャラクター?)のもとに成り立っていながらも、実に様々な彩りに満ちているのである。(以下、各曲の抜粋レビュー)1曲目「A Turtle's Heart」は、バンドサウンドを基軸にしつつも、Miliの持ち味であるポップさと神聖さを120%体現している曲である。イントロで流れる打ち込みストリングスと木琴が合わさったような音が、”天上の音楽”という雰囲気を出しており特に好みだ。これが新曲だというのだから、そりゃあ新旧問わず全てのリスナーがハートをがっちり掴まれてしまうだろう。3曲目「Utopiosphere」はわずか2分の曲でありながら、ポップスバラードに必要な要素をすべて抑えており脱帽だ。4曲目「Friction」は、音楽ゲーム「Deemo」のために作曲された、重く美しいピアノに打ち込みビートが絡むエネルギッシュなインスト曲だ。ライブで聴いて一番よかったのもこの曲だった。6曲目「YUBIKIRI-GENMAN」はアルバム初の日本語詞であることと、オケのシンプルさとボーカルへの音符の割り振り方から実にJ-POP色が強い印象を受ける。少し意外だったが、歌詞を曲の中心にして響かせることに重点を置いた優しい曲だ。9曲目「Imagined Flight」はピアノとドラムが主役を張り合う骨太な曲だが、ボーカルmomocashewが本領を発揮する曲でもある。英語とラテン語(?)が複雑に交差するトラックを難なく歌うだけでなく、めまぐるしく変遷する曲調に合わせて様々な声色を使い分けていたりもする。個人的には、「Tuli tarita...」と繰り返し歌うパートが何となくカタカナ発音っぽく聴こえて親近感が沸いた。12曲目「Maroma Samsa」は、アルバム中で最も電子音楽への傾倒が強いインスト曲。ラストの13曲目「Witch's Invitation」は、アルバム中最長の5分超えのトラックであり、イントロ(兼Aメロ)とBメロ、Cメロ、Dメロのすべてで異なる印象を受ける、まさに変幻自在といった曲だ(多分サビに相当する部分はない)。Miliの持つすべてを詰め込んだと言っても過言ではないこの曲、Miliのキャラクター性やその音楽の自由さを示す名刺代わりの曲として相応しいだろう。



【ロック・ポップス】 (3) Fecking Bahamas / I. Japan

リリース: 2014/06/05
配信: Bandcamp


あなたは「マスロック」というジャンルをご存知だろうか。英語で綴ればMath Rock、直訳すれば算数ロック。こう書くとかっこよさが伝わらないが、まるで譜面上で割り算して音符を割り振ったかのような精緻で細かいカッティングと、その演奏を可能とする高い技術を併せ持った良質なバンドが数多くひしめいているジャンルである。そんなマスロックを軸に展開している海外レーベルFecking Bahamasが、第1弾コンピレーションとして企画したものが「I. Japan」である。平たく言えば、日本でマスロックを演ってるヤバいバンドが一斉に集結した大規模コンピである。一口でマスロックと言っても紋切り型の音ばかりであるわけではない。惚れ惚れするほど細かい音をさも軽そうに演って貫禄を感じさせるナンバーや、かなりエモ寄りの激しいナンバー、比較的ゆったりしたナンバーまで実に多様なマスロックが楽しめる。ここでは、マスロックという言葉は音楽を規定する記号ではなく、あくまで最小公倍数でしかないという印象を抱く。「マスロック」でググって検索結果にズラッと並んだバンドを詰め込んだような感覚、と言って伝わるだろうか。ジャンルの初期衝動のような、仕切る顔役がまだどこにもいなさそうな自由なお祭り騒ぎを感じることが出来る良いアルバムだ。とはいえ、いくら自由といっても細かい譜割りは最低条件として共有されているようで、全体として演奏技術が高めであることは特色として挙げられるだろう。しかしこのコンピレーション、日本のバンドだけを集めただけあって、ところどころに叙情性やキャッチーさが散りばめられており、日本の音楽を聴くことの多い筆者の好みに大変良く合う。ちなみにこのアルバム、驚くべきことに無料である。上記のBandcampより21曲が可逆圧縮音源でフリーでダウンロード出来るのである。ところで、2014/11/30にはロシアのマスロックを凝縮した第2弾コンピ「II. Russia」がリリースされているので、両者を聴き比べてみるのもオツだと思う。



【電子音楽】 (2) Mulllr / for Minus Four Nine

リリース: 2014/03/14
配信: Bandcamp


Motoro Faamとして名盤「...And Water Cycles」を残した前衛的電子音楽作家・mulllrのソロ3作目となるアルバム。1stと2ndでは長尺の無機質なアンビエント・ドローンをリリースしていたが、今作では音楽性を一転させてノイズ蠢く透明な激流を生み出した。19のトラックに分かれているが全てひと繋がりとなっており、総計50分もの壮大な流れを生み出している。各トラックのタイトルは数字となっており、よく見ると徐々に下がって行っている事が分かる。最初はゼロで、最後が-9999.00、つまりこのアルバムのタイトルが示す通り、-9999.00に向けて概念の奔流を下っているのだ。全編に渡り支配するこの暴力的なノイズは、まるでドラゴンのような”触れ得ざるもの”の偉大さを感じさせ、何人たりとも寄せ付けないオーラを有している。しかし、これはただ破壊するだけのノイズではない。むしろ人を生かすもの、心を活かすもののようにリスナーの血肉を沸騰させていくのである。これは生命の音であり、魂が脈動する音だ。もし、大動脈に耳を押し当ててその音を聴くことが出来たとするなら、もしかしたらこのような複雑かつ力に満ちあふれたサウンドを奏でているのかもしれない。こういったノイズ・アンビエントの数々のアルバムを聴いていると、生命そのものを音に置き換えたかのような、人間が音楽に抱く原初的な感情(本能と言ってもいい)を直接呼び起こす作品と出会うことがある。2009年に「Puella Magi」、2012年に「Xeno」をリリースしたGo-qualiaなどはまさにその代表格だ。ノイズは血流であり、ビートは脈動だ。もはや音楽を聴いていると思っていたら、いつの間にか自らの生命と向き合っていた、そんな風に思わせられるような傑作が、今年も生まれたのである。BandcampでName Your Priceでリリースされているので、是非可逆圧縮音源でダウンロードし最大音量で聴いていただきたい。



【ロック・ポップス】 (2) Marmalade Butcher / Uteruchesis

リリース: 2014/11/26
配信: Amazon.co.jp


マ肉ことMarmalade Butcherのデビューアルバム。先に紹介したFecking Bahamasのコンピレーション「I. Japan」に参加していることもあり、マスロックのバンドであると筆者は認識している。硬派なロックバンドとしては珍しく最初は同人サークルとして出発しており、3枚のアルバムを含めた多数のCDを自主制作している。非常に細かい譜割りを緻密に再現した高い演奏技術を誇るバンドだが、それもそのはず、このバンドの曲はまずコンポーザー・ギター担当の「にえぬ」がまず打ち込みでほぼ完成させてから、他のメンバーが再現しつつ手直しするという非常に特異な作り方をしているのだ。このことをインタビューで読んだ時、技術先行型でとにかくゴリ押すタイプだな、と昔同人CDを聴いて感じていたこの感覚に合点が行ったのである。極論するなら、打ち込みの精神で作られたロックはまさにマスロックと相性抜群なのだ。ライブをするようになった今でも作り方は変わっていないとのことで、これからのバンドの動きが実に楽しみである。そういえば大事なことを言い忘れていた。このバンドの曲はほぼインストである。つまり歌ものが皆無なのだ。昔、それこそ同人で初めてCDを作った時などは音楽性も定まっていなかったため、普通の(と言っては悪いが)ボーカルロック等も聴けたものだが、このアルバムでは5曲目「Voice of Chloe」にとある女声ボーカルをズタズタにサンプリングした残骸を散りばめたノリノリなナンバー以外には何らかの声すら見当たらない。というかこの曲はかなり良い。アルバム全体を通してBPMの高い硬派なマスロックが多い中、この曲はライブで観客と一緒にジャンプしながら弾くタイプのミドルテンポ(BPM128くらい)な縦ノリが持ち味であり、言ってみればアルバム序盤の怒涛のマスロック攻勢を終えて一息つく立ち位置にある曲だと言える。ブレイクビーツを取り入れた6曲目「Distruczione Dei Cervello」や、ギターリフだけで全てを引っ張る叙情的な7曲目「Hypnorain」等、アルバム中盤は比較的落ち着いた曲が多く、メロディのフックも効いておりただ細かい演奏が出来るだけのバンドではないことがよく分かる。このバンドは、曲にキャッチーさを取り入れることを決して忘れない。「モテるインスト」を標榜しているだけあって(公式スローガン)、バンドにおいてボーカルが不在であることのデメリットをよく理解しており、ボーカル無しでもリスナーの耳に残るような曲作りを心がけている事が随所で感じられるのである。速い曲は休まぬ速弾きで有無を言わさず畳み掛け、ゆったりな曲はギターに啼かせてとびきりクサいメロディを披露する、といったある程度のスタンスが見えてくると、このバンドの曲を2倍も3倍も楽しめるようになると思う。



【電子音楽】 (1) hacne & fuyuru0 / usuyami

リリース: 2014/05/12
視聴: 特設サイト 


間違いなく、今年最も衝撃を受けた電子音楽のアルバム。絵描きのhacne(白熱灯)と音描きのfuyuru0によるアルバム。この作品は全7曲のアンビエント・アルバムだが、そのトラックすべてに絵が付けられている。いや、7枚の絵に音楽を付けたと言った方が正しいか。このアルバムは、CDや配信サイトでリリースされるべく作られたものではない。完全な形で鑑賞するには、専用のWebサイトを訪問する必要がある。そこでは、真っ黒な背景に7つの曲目が示されており、クリックすると1枚の大きな絵が現れる。その下に小さなプレイヤーが設置されており、画面一杯に展開された絵画を鑑賞しながら音楽を味わうのだ。このアルバムは、「うすやみ」と題する7枚の連作絵と、そのサウンドトラックによる「絵のアルバムと音のアルバムの総体」に他ならないのだ。hacneによる絵の魅力、迫力というものがまた言語に尽くしがたい。使われている色の種類は少なく、1系統のものしか使われていない事が多いものの、その濃淡がくっきりしているため「光と影」の強烈なコントラストが生じ、見た者の脳に焼き付く。その絵をほぼ完璧に音楽の形に起こしたfuyuru0の抜群のセンスもあり、鑑賞者は危うく五感と思考を失いかけ、それを7度連続で経験することで初めてこの「usuyami」という怪作を鑑賞し終えるのだ。まるで恐怖体験談のような文章になった。しかしそれだけこのアルバム(音楽と絵、両方の意味合いで使える便利な言葉だ)のもたらす衝撃が凄まじいという事を察していただきたい。アンビエント好きと自覚している方には、是非この作品を専用サイトで味わってみて欲しい。特にそうでない人も、アンビエント音楽というものの真髄を十二分に表現したこの作品に、是非触れてみて欲しい。繰り返しになるが、このアルバムはまずウェブサイトで聴いて欲しい。筆者もそう強く願っているため、あえて上に音源のダウンロードリンクを貼らなかった。とはいっても、公式サイト上でFLACやMP3の形で音源をダウンロードできるリンクが紹介されているので、その点については安心していただきたい。



【ロック・ポップス】 (1) Annabel / TALK

リリース: 2014/03/26
販売: Amazon.co.jp


Annabelのソロ2作目となるフルアルバム。完全にmyuプロデュースだった1stとは異なり、アルバム中の各曲を異なる作曲家が手がけている。1曲目は感傷ベクトル、2曲目は 元School Food Punishmentの蓮尾理之、他にも保刈久明やハイスイノナサ照井順政、ラスマス・フェイバー等、見る人が見れば卒倒するほど豪華な、押しも押されぬ個性派が揃っているのである。こういう「作家で固めた」タイプのアルバムには、作品全体の統率が取れずじまいになって散漫になってしまうものも少なくないが、このアルバムに関してその心配は皆無だ。Annabel側は「自分が好きなアーティストにオファーした」と語っているのだが、それと同じく作家側もAnnabelというアーティストをよく知った上で楽曲提供し、作品を作り上げる過程で互いのコミュニケーションを濃密に取れているのだ、という事がどの曲からも聴けば聴くほど伝わってくる。これまで大多数のリスナーが前提としていた「Annabelソロの楽曲といえばmyu」という固定観念をいい意味で脱却した作品だが、錚々たる作家陣の中には引き続きmyuの名前もあり、名曲「Alternative」等でしっかり混ざっている点も見逃してはならない。新しいことを始めるのに、これまでのもの全てを切り捨てる必要はない。みんなで一緒に楽しんでしまえばいいのだ。新規のAnnabelリスナーや長年のAnnabelリスナー、楽曲提供したアーティストのリスナーも含め、誰もが幸せになれるアルバムではないだろうか。自分も何度も何度も聴き、気が付いたら今年最も心に残った日本語ロック・ポップスのアルバムとなっていたのである。



今年リリースされたサウンドトラックCDから10枚を選び、レビューを書きました。

※対象アルバム・・・2014/01/01~2014/12/19までの間にリリースされた、あらゆる媒体のサウンドトラック・アルバム。
※筆者の好み上、ゲームとアニメが中心になっております。
※順位に深い意味はありませんが、それなりに真剣に考えました。

【2014年ベストアルバムの記事一覧】

Vol.1 VOCALOID/UTAU20選 ・・・ 2014/12/19(金)公開
Vol.2 同人音楽10選 ・・・ 2014/12/20(土)公開
Vol.3 サウンドトラック10選 ・・・ 2014/12/21(日)公開
Vol.4 ロック・ポップス6選+電子音楽6選 ・・・ 2014/12/23(火)公開
Vol.5 今年出会った旧譜10選 ・・・ 2014/12/24(水)公開



 
(10) Elements Garden / モーレツ宇宙海賊 オリジナル サウンドトラック コンプリートCD-BOX

リリース: 2014/09/24
販売: Amazon.co.jp
配信: iTunes Store(劇場版OST)


よくぞ出してくれた!!と声を大にして言いたい1枚。TVアニメ2クール+映画1本の劇伴音楽をCD3枚にまとめた完全版のサウンドトラックだ。TV放送の要所で流され印象に残っているであろう名曲「大航海時代」を、1枚目の1曲目にいきなり持って来るのでとにかくテンションが上がる。「モーレツ宇宙海賊」という作品の設定上、ショーやスペクタクルという要素が中核に位置し、登場人物にもそれぞれ演じる役柄があるため、観ている側も劇中劇の観客になったような感覚になる。必然、このサントラもある意味での俯瞰視点からの音楽となり、「この場面にはこういう曲」という設定付けがものすごくはっきりしていることが分かる。そのため、アルバム全体を通して物語の起承転結が見えてくるので、アニメを観ている場合は特に、観ていなくてもそれなりに楽しく聴けるのである。ちなみに、iTunes Storeでは3枚のディスクがそれぞれ異なるアルバムとして発売されており、3枚とも買うとCD-BOXより高くなるという謎の価格設定となっている。単曲買いor劇場版BGMだけ買うならアリか。



(9) TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND / ウィッチクラフトワークス オリジナルサウンドトラック

リリース: 2014/05/21
関連: インタビュー記事


2014年冬アニメ「ウィッチクラフトワークス」の音楽を手がけたのは、海外レーベルよりCDリリースの経験もあるゴリゴリのテクノユニット、TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND。通称テクノボーイズ。最初に名前を知ったのはAnnabelの2nd「TALK」に提供した曲だったが、あのエレクトロニカ路線はどうやらイレギュラーだったようで、このアルバムではハードシンセをふんだんに用いた質感ある硬派な電子音楽を堪能できる。とはいってもやはりこれはサウンドトラックなので、音のゴリ押しをある程度収め、場面を盛り上げるための叙情性も最大限取り入れられている。いくつかの静かな曲では、ピアノが軸となって曲の展開をリードする重要な役割を任されていたのが印象的だった。更には「テクノユニット」のイメージからは程遠いオーケストラ曲まで収録されており、しかもかなり良かったのでいい意味で予想外だった。それでもテクノしているところはちゃんとテクノしているので(頭の悪い日本語)、テクノユニットとしての新譜とサウンドトラック・アルバムの両方のアイデンティティを表すことに成功している、との印象を抱いた。2枚組59曲の中で手を抜いた曲は1つもなく、ちょっと一筋縄ではいかないアルバムだ。それにしてもエンディング曲「ウィッチ☆アクティビティ」はテクノとしても電波ソングとしても正しい名曲(迷曲?)だ。さらに、このアルバムの面白さはブックレットにもある。全曲のトラックリストや作曲者のコメントのみならず(これがあるとサントラの楽しみが倍増するのだが無い場合が多い)、作曲者のテクノに関する持論や曲の作り方が、使用している機材の画像付きで解説されているのだ。おそらくはビギナー向けの議論に抑えられていると思うのだが、テクノに詳しくないアニメ視聴者にとってはかなり刺激的な体験になるのではと考えている。作曲者の挟持というか、テクノへの情熱が中途半端ではないことがよく分かる素晴らしいブックレットだ。



(8) 牛尾憲輔 / ピンポン オリジナルサウンドトラック

リリース: 2014/11/26
配信: iTunes Store / Amazon MP3
ハイレゾ配信: mora


2014年春アニメ、ノイタミナ枠のアニメ「ピンポン」のサウンドトラックが11月に遂にリリースされた。手がけるのは、テクノ寄りの電子音楽を得意とする牛尾憲輔だ。agraphの名義で長く活動している正真正銘のアーティスト畑出身だが、「ウィッチクラフトワークス」主題歌のリミックスをするなどアニメ畑との接点もある。牛尾憲輔およびagraphの作品は寡聞にして詳しくないのだが、このアルバムを聴いているとテクノとしてはビートが抑え目で、代わりにベースやシンセが曲展開を引っ張っているように感じられる。中には10曲目「Butterfly Joe」のように、ビートやベースの役割をピアノが全て演じた編成でありながら、確かにテクノの文脈で構成されていることを感じさせる驚愕のトラックもある。音楽ジャンルというものは時が経つにつれその定義が曖昧になっていくものだが、牛尾憲輔の音楽は極めて多様な音・楽器を用いていながらテクノというジャンルとして聴くことが可能となっており、まさにジャンルの進化の先にある音楽と言えるのではないだろうか。その中でもとりわけ、13曲目「Ping Pong Phase」と38曲目「Ping Pong Phase2」は異色だ。このアルバムはタイトル通り卓球アニメのサウンドトラックなのだが、この曲は卓球玉が卓上で跳ねるカコン、カコンという音をそのまま使ってテクノにしてしまっており、あまりの卑怯さに(褒め言葉)つい吹き出してしまった。なお、このアルバムはCDではリリースされておらず、iTunes StoreのAACやAmazon MP3(非可逆圧縮)、そしてmoraのハイレゾFLAC(24bit/48kHz)で配信されている。手頃な価格ならAACやMP3、音質を求めるなら(あるいはCDで聴きたかったリスナーも)ハイレゾで購入するといいだろう。最後になったが、このサウンドトラック、どうやら完全版ではないらしい。メインテーマである2曲目「Hero Theme」は再生時間ちょうど2分と尺は短いが、インパクトもあり作品の要所で効果的に流れる重要な曲だ。どうやら、この曲の”フルバージョン”が制作されているのだという。しかし噂によると、「3万円の商品を買ってくれたらフルバージョンを聴かせてやらんでもない」と吹いて回る団体がいるらしいのだ。真偽は定かではないが、真実だとすれば言語道断、プレミア感を煽ってCDアルバム10枚分もの金を払わせ、リスナーの財布を極寒の地に陥れる何ともあくどい商売だと言わざるを得ない。



(7) ききやま / ゆめにっきサウンドトラック ~ゆめのおと~ 完全版

リリース: 2014/08/31
販売: Amazon.co.jp
非圧縮配信: OTOTOY(第1弾/第2弾)


ニコニコ動画で初めて「ゆめにっき」のプレイ動画を見て、何となく知っていたつもりの「ゲーム」というものの更に深い領域に触れたのはもう7年も前の出来事だ。そんな「ゆめにっき」のメディアミックスが2014年になってひっそりと、しかしエネルギッシュに進められていった。マチゲリータによるイメージシングルを起爆剤としてマンガ・小説が次々と発売され、そして遂に本家ゲームのサウンドトラックがリリースされた。このアルバムは2枚組となっており、1枚目は作者・ききやまによる55曲を収録したものだ。各曲きっかり1分なのでディスクの再生時間は1時間程度だが、「ゆめにっき」を実際にプレイした、あるいはプレイ動画を見た人ならその1時間がどれほど濃い1時間になるかは容易に想像できることだろう。全体として、一聴してゲーム音楽だとはすぐに信じられないような、ローファイなドローン・アンビエントに支配されている。比較的明るめの曲であっても、8bitを軸にした物悲しいメロディが脳に焼き付いて忘れられない。「SIREN」等の洗練されたホラーゲーム音楽とはまた違う、荒削りで先鋭的なセンス。BGMの二次創作アレンジが数多く公開されていることから考えても、「ゆめにっき」という作品はゲーム音楽のシーン全体を語る上で、決して無視できない立ち位置にあると筆者は確信している。2枚目は”∞INFINITY”というアーティストによるアレンジアルバムとなっている。本家サウンドトラックに他人のアレンジアルバムが同梱される構成に最初は眉をひそめたが、蓋を開けてみるとこれが実に良いものだった。原作の郷愁あふれるメロディを存分に活かし、美しいエレクトロニカに仕上げた1曲目「ゆめにっき」をはじめ、原作の雰囲気へのリスペクトを最大限に込めて、かつアレンジャー自身の世界をも表現するという、ともすれば失敗することの多いアプローチに成功していると筆者は感じた。本家と同じパッケージに収録される、という時点でリスナーの用意したハードルがかなり高くなっていることは想像に難くないが、そのハードルを正面から乗り越えたこのアレンジアルバムには心からの拍手喝采を送りたい。とても良いボーナスステージだった。



(6) 妹尾武 / いなり、こんこん、恋いろは。 オリジナルサウンドトラック

リリース: 2014/03/26
販売: Amazon.co.jp


「お、ARIAの妹尾武さんか」と、軽い気持ちで手に取って聴いてみたら大当たりだったという、この冬放送されたアニメ「いなり、こんこん、恋いろは。」のサウンドトラック。まずアルバムの冒頭に、つじあやの作曲・大空直美歌唱のキャラクターソング「涙はらはら」が配置されている時点で異色だ(しかもこれは番組後半の第10話で使われた曲だという)。そしてそれが作品全体の方向を示す本当に素敵な曲なのである。続く2曲目「天空の郷」もまた素晴らしい。作品冒頭で舞台風景を描写するための音楽なのだが、他作品の類似のシチュエーションでの音楽と比べると「格の違い」を実感する。まずメロディの重みが違う。そしてストリングスの鋭さと深さが別格だ。おそらくオーケストラも豪華な編成で、録音環境も良好なのだろう。この2曲に惚れたら、あとはどっぷり浸るだけだ。サウンドトラックは、当然ながら場面を盛り上げるための音楽であるわけだが、本当に良いサウンドトラックは場面に添えられるだけでなく、それ自体が独立して物語を紡ぎ始める。なので、そうした良いサウンドトラックは、物語を伝える大事な語り手としての役割をも担うことが出来るため、アニメ作品へリスナーを誘う切っ掛けとしても重要な立ち位置にあるのだ。そしてこのアルバムは音楽だけでなく、ジャケットイラストにも味がある。木々に囲まれながらピアノを弾くダンディは間違いなく妹尾武本人だろう。そして、その演奏に聴き入る主役の二人。こういう、キャラクター推しでもない、キャラクターを排除したでもない、それでいてサントラらしさを出した絶妙な構成のイラストはまさに会心の出来と言えるだろう。



(5) 増田俊郎 / 蟲音 続

リリース: 2014/06/25
販売: Amazon.co.jp


8年ぶりに2期が放送される、という息の長いアニメ「蟲師」。そのサウンドトラックもまた、8年前と変わらぬ魂をもってリリースされた。この音楽をジャンル分けするとしたら、一体どのようになるのだろう。ここで使われる楽器は、電子音と民族楽器の中間のように聴こえ、ふとした拍子に一体"どちら側"なのか分からなくなる。このつかみ所のない、しかし間違いなく美しい音色は、生命とも生命でないものとも言える「蟲」の存在を描写する上でうってつけなのかもしれない。このアルバムには、2期本編より先に放送された特別編「日蝕む翳」のBGMも収録している。その最も印象的な日蝕のシーンが、セリフも効果音もなくただ音楽と映像のみで表現されるため、音楽が極めて鮮烈に印象に残るのだが、その曲「日蝕む翳」がいきなり1曲目に置かれているのだからたまらない。新曲の他にも1期BGMのアレンジが数々収録されており、知っている人も多いと思われるあのテーマ曲のアレンジが見事だった(8曲目「蟲師・続章」)。最初は特に違いを感じなかったのだが、1期サントラと聴き比べると全く異なる事がわかり、1期とほぼ同じ楽器・音色を用いて同じ曲をアレンジしているというのに、ここまで違いを出せるのかと思わず感嘆してしまった。アレンジというものは本当に奥が深い。余談だが、その1期サントラは長らくプレミア化していたのだが、2015年1月ついに再販されることとなった。これはマストバイである。



(4) 岡部啓一・MONACA / 結城友奈は勇者である オリジナルサウンドトラック

リリース: 2014/12/10
販売: Amazon.co.jp


5人の可愛い女の子が、世界を滅ぼさんとする悪と闘いつつ絶望に苛まれるアニメ(意訳)のサウンドトラック。名作ゲーム「ニーア ゲシュタルト&レプリカント」と同じ作曲家がサウンドを手がけ、同ゲームでボーカルを担当したEmi Evansも参加するという触れ込みで、かつバトル曲を中心に収録するということで大いに期待していた一枚だ。「ニーア」シリーズを手がけた岡部啓一・帆足圭吾・石濱翔の3人に加え、同じMONACA所属の高橋邦幸の4人による共同制作となっており、期待以上に統一感のあるアルバムだった。作曲担当が4人いる大所帯サントラだが、各々の得意分野を持ち寄ったという色は比較的薄く、ひとつの世界観に基づいた熱くもクールなバトル曲を存分に堪能できる。それにしても、2014年は今作のEmi Evansといい、「アルノサージュ Genometric Concert」のOrigaといい、サウンドトラックにおけるボーカリストの力というか、曲ひいてはその曲が流れる場面の方向性を決定づけて引っ張っていく力に驚かされる、そんな作品と出会うことが度々あった。むやみにインストで固めるだけでなく、歌モノを効果的に使用してこそのサントラである・・・と言いつつこのアルバムに収録された主題歌「ホシトハナ」をよく見ると、なんと歌なしのカラオケバージョンだった。声優さんの歌だけど、この重厚な音楽からは決して浮いてはいないと思ったけどなあ。更には、このアルバムには「大団円」に当たる音楽がないことも気になった。発売時点でまだ完結していないからネタバレ回避に入れていないのだろうけど、このままじゃ「ラストバトルの決着が付きそうだけど付かないかもしれない」という一番盛り上がる場面でお預けを食らっているようで非常に悩ましい。以上の2点がこのアルバムの不満点だが、それを差し引いても曲ひとつひとつがどれも熱くてクール(2度目)であり、好みのツボを刺激してやまないのだ。本当にいい仕事をしていると思う。



(3) 柳川和樹・阿知波大輔 / アルノサージュ ~生まれいずる星へ祈る詩~ オリジナルサウンドトラック

リリース: 2014/03/05
販売: ガストショップ
配信: iTunes Store / Amazon MP3


「アルトネリコ」「シェルノサージュ」に続くヒュムノスシリーズ最新作のサウンドトラック。正直、このシリーズは劇中歌集にばかり力を入れていて、そうでない曲はイマイチという印象があったのだが、アルノサージュに関してはサントラもやたら評判が良かったので気になって購入。結果、予想をはるかに超えた大当たりだった。オープニングテーマは志方あきこによるゴリゴリのサイバー民族調、これはもうシリーズ通してのお約束と言えるものとなっている。その他の曲も、印象に残るはっきりしたメロディ、反復に耐える堅実なアレンジ、じっくり鑑賞できるある程度の尺と、サントラとして理想的な条件が揃っているのである。特に序盤から「碧き方舟」「緑陰の蛍」「虹の伽藍」などといった名曲が続くのでぐいぐいと引き込まれる。アルバム前半の阿知波大輔は本当にいい仕事をしている。しかし、このサントラを名盤たらしめる一番の要素はDisc 2の1曲目「Minakata」(阿知波大輔)と2曲目「Mikazuchi」(柳川和樹)だ。2曲とも、バイオリンとエレキギターが代わる代わるソロパートを演奏するという構成なのだがこれがとてつもなく熱い!およそゲームBGMらしからぬ暴れっぷりを見せており、双方負けじと張り合っている様はまさに「音楽バトル」である。ギターとバイオリンが同時に演奏する箇所がないため、互いにバチバチと火花を散らしている対立の構図がありありと浮かびとにかく盛り上がる。心に残るサウンドトラックは、こうしたキラーチューンが必ずと言っていいほど収録されており、何度も何度も聴きたくなるのだ。今年一番良かった”サントラの曲”を挙げるなら、迷わず「Mikazuchi」を挙げるだろう。なお、このCDはアマゾンの在庫がすでに引き払われていて、マーケットプレイスでは少々高くなっているため、制作会社・ガストのオンラインショップから直接買った方が送料込みでも安いのでオススメである。



(2) 菅野よう子 / 残響のテロル オリジナル・サウンドトラック

リリース: 2014/07/09
販売: Amazon.co.jp
ハイレゾ配信: mora


渡辺信一郎監督・菅野よう子音楽の無敵コンビによる、2014年夏アニメ「残響のテロル」サウンドトラック第1弾。このアルバムは色々と凄い。1つ目に、特設サイトが凄い。「Darker Than Black」の時も、監督を差し置いて一番最初に菅野へのインタビューが公開されたように、菅野よう子のネームバリューは次元が違う。特設サイトにはトラックリストと試聴リンクに留まらず、極めて長いライナーノーツも掲載されている。そこには、このアルバムが出来上がるまでの過程がまるで紀行文のように記されており、マスタリング等の工程を含めるとこのアルバムは完成するまでに世界一周しているらしい。恐ろしいスケールだ。2つ目に、半数ほどの曲がアイスランドで録音されているのが凄い。残響のテロルという作品に合うような、北国の冷たい感じを出したかったと作者が述べていることから、現地のボーカリスト・作詞家を招いていかにもな寒色ポストロックを作り上げている。ちなみに、アイスランド語の作詞は非常に難しいらしく、母語話者ですら一般人には出来ないため通常は専門職としての作詞家に依頼するらしい。そして3つ目に、「菅野サントラ」が各作品で放つリアリティが、今作でも遺憾なく発揮されているのが凄い。ポストロックというアニメサントラでは馴染みのないジャンルに、適度に叙情性をふりかけて劇伴音楽としての役割を担わせることは重要なステップだ。だが、サントラ制作に日本原産ではないジャンルを持ち込む際、他の作家ならいかにも日本の音楽を聴いて育った人間が作ったような、「民族衣装を羽織った日本人」のような曲になるものだが、菅野よう子はまずその音楽を奏でるための血や骨、人生を作るところから始めており、あたかも「日本のアニメ音楽を熟知している現地の音楽家」が作ったかのようなリアリティを体現しているのだ。つまり、菅野よう子は音楽で世界を彩る際に動員する想像力の総量が、他の作曲家をはるかに凌駕しているのである。作れるジャンルの引き出しの多さは想像力の桁の違いに他ならず、絵本を読んでその世界を夢を見る少女が、精神と技術の双方を極限まで磨き上げた結果生まれたモンスターが「菅野よう子」というひとつの現象なのだ。

菅野よう子本人は、サントラ仕事について「制限があったほうが燃える」と語っていたことがある。それはつまり、制約・条件という「種」を撒くのは他人に任せたい、あとは育つのを待ってて欲しいという制作スタイルの表れであり、それは菅野よう子というきわめて肥沃な土壌への信頼なしにその実力を引き出すことは不可能であるという、自らの技量への絶対的な自信を示したように思えてならないのである。「残響のテロル」という種は、これだけ素晴らしい果実を実らせた。作品では、登場人物すべてがどうしようもない未熟さを抱え、結論として起こってはならない事が起こってしまった。その行き場のないやるせなさに寄り添い、悲しい結末を受け入れさせ、悲劇に浮足立った足をそっと地面に降り立たせ、新たな段階へと進ませるための音楽、それが菅野よう子がこの物語に対して与えたひとつの「生き方」なのである。



(1) 植松伸夫・成田勤・岩佐樹 / グランブルーファンタジー オリジナルサウンドトラック

リリース: 2014/08/15(C86先行販売)
販売: Cygames直販


植松伸夫(編曲:岩佐樹)と成田勤の3人による、Cygamesのソーシャルゲーム「グランブルーファンタジー」のサウンドトラック。ノビヨが絡んでいるだけあって音楽のクオリティは随一。このアルバムは基本的に前半が植松、後半が成田の曲という構成なのだが、通して聴くと両者の作風の違いが明確に表れている事がよく分かる。FFで例えるなら、前半は植松時代のメロディが軸となる柔らかな曲調であるのに対し、後半は植松が離脱して以降の(特に13の一連のシリーズ辺り)硬質さが際立ってくるのだ。そういう意味では、「植松といえばFF」という人にこそ聴いて欲しいアルバムである。まず植松のキャッチーさでリスナーの琴線をピンと弾いた後、硬派な成田節を繰り出してハートをがっちり掴む流れは実によく出来ておりニクい(褒め言葉)。しかし成田勤の担当パートにも、13曲目「アウギュステ列島 -白沫の瀑布-」のような突出して美しいメロディが現れるので気を抜けない。アルバムのラストを飾る20曲目「天に散りし覇者との邂逅」などは、ピアノとオーケストラが圧倒的なパワーとプログレ的な反復で畳み掛ける力強いトラックであり、”眼前にそびえ立つ雄大な何か”の存在を匂わせてくる。この曲はあたかも、プレイヤーの旅路が半ばであり、あれから遠くまで来たが到達点は未だ果てなく遠いことを示しているかのようだ。この”圧倒的To Be Continued感”を残したまま、このアルバムは一旦幕を閉じる。現在進行形でアップデートを続けるゲームのサウンドトラックとして、これほど理想的な締めがあろうか!それだけに、これほどの名盤がCygames直販でしか流通せず、また期間限定販売と銘打ってしまっていることがあまりにも惜しい。

このアルバムと先の「残響のテロル」サウンドトラック、どちらも今年リリースされた中では特に気に入ったアルバムであり、いざ順位をつける際にどちらを1位にしようか大いに悩んだが、個人的にグッと来たキラーチューンの占める割合が「グランブルーファンタジー」の方が多かったことから、こちらを2014年ベスト・サウンドトラックとさせて頂いた。



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