2016年01月

リリース: 2015/12/31 (コミックマーケット89)
試聴: YouTube
販売: BOOTH / Amazon.co.jp

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バンド名は「おはようございます」、デビュー曲は「すごい」、初音源は「ものすごい」。何だか人を喰ったようなネーミングだが、サウンドはダウンチューニングを施されデスヴォイスが乱れ飛ぶバッキバキでズンズンのハードコアメタルだ。バンドの核にして全作詞曲を手掛けるのはベースの””。鬱の旧友でギター&コーラスの””、そして1年以上に渡り熾烈を極めたというわけでもないオーディションの末に加入したボーカルの””、以上の3名で結成されたバンドだ。ドラムは現在募集中とのことで、MVやライブにはサポートを迎えている。


”鬱”は”鬱P”としてVOCALOIDを起用した活動を長く続けており、先述のハードコア路線は活動初期の時点で既に完成されている。宅録と打ち込みだけで作られたとは思えないほど重々しいサウンドに、デスヴォイス状に加工されたVOCALOIDの歌声、社会風刺が込められる事の多い毒の強い歌詞、そして猛烈にキャッチーなメロディ。これら全てを1曲に押し込めたあまりにエッジの効いた作風で、コア・ライトを問わず多数のファンを獲得している。”骸Attack!!"”害虫””THE DYING MESSAGE"”馬鹿はアノマリーに憧れる”など代表作を挙げればキリがないが、その路線をそのままバンドに持ってきたという体裁なのがこの「おはようございます」だ。

Tr.1「Intro」は三味線と打ち込みドラムが地響きのようにドロドロと響くインスト曲。いかにも打ち込み然としたサウンドにシンプルな構成であるにもかかわらず、たった1分聴いただけで”鬱”の打ち込みスキルが高いレベルにある事が伺える。ノンストップで続くTr.2「野暮用ガール」は実質トップを飾るに相応しい疾走感のあるトラック。初っ端からパワー全開のギターとベースの分厚い波、クリーンボイス中心のボーカルに意外とトリッキーなドラムと随所に聴きどころがある。続くTr.3「MIMIZU IN THE DANCEFLOOR」は、バンドサウンドにEDMテイストの打ち込みが複雑に絡み合ったトラック。ハードコアでありながら骨格はダンスミュージックに近いという、鬱のサウンドの嗜好が存分に発揮された快作だ。ボーカルは一転してデスヴォイス中心となるが、しっかりと耳に残るキャッチーなサビを用意していたりと抜け目がないところも流石。Tr.4「すごい」はバンドとして初めて発表されたトラック。ストレートなロックテイストにひたすら”すごい”を繰り出し、人間の命のすごさを称える謎の歌詞が印象に残る。キネティック・タイポグラフィを活用したMVがYouTubeに投稿されている。


Tr.5「慇懃無礼」はわずか56秒のハードコア一直線なトラック。それでもちゃんとサビはクリーンという徹底ぶりに脱帽させられる。Tr.6「家 VS. 泥棒」は、もう何だかタイトルの時点でオチているのだが、一見バラエティタッチと思わせておいて後半に悲痛なメッセージを込めてくる辺り、作詞のスキルの高さをビンビンに匂わせてくる。Tr.7「猥褻」はこういうタイトルだが曲は特にエロくない。6/8拍子というハードコアとしては異例な構成をしており、”都会人の孤独”というテーマや感傷的なメロディと相まってバラードのような哀愁を感じさせる。最後のTr.8「終わらない娯楽」は、ラストトラックに相応しくこれまでの要素を全て詰め込みきっちりとまとめた曲だ。しかしそれ以上に、最後の最後のラスサビで最も破壊力の高いメロディをぶっ込んで来たのは予想外だった。完全に油断していた。こうして最後に特大の爆弾を投下したところでこのアルバムはぶっつりと終わる。


細かいサウンドの変化はあれど、鬱(鬱P)は2008年に活動を開始して以降そのスタンスは一貫しており、そのサウンドはリリースを重ねるごとに洗練され、そのセンスは毒と快活さを増しますます刺激的になっている。また、鬱の創作への好奇心は相当のもので、新たなジャンルを取り入れる事に余念がない。ダブステップや歌謡曲を取り込んだかと思えば、いつの間にかEDMばりの打ち込みサウンドをマスターしており、それが高じて100%EDMのRemixを制作したりDJとしてイベントに出演していたりもする。ハードコアと聞くと硬派なジャンルというイメージが浮かぶが、鬱に関してはむしろ積極的に他ジャンルへと介入しようとし、場を盛り上げてオーディエンスを楽しませ自身もまた楽しむという好循環を自ら作り出している。こうして入り口を広げ、ハードコアというジャンルのリスナーを着実に増やしていった鬱の功績は、決して過小評価されるべきではないだろう。

そんな訳で上の段落は全て前置きとなるのだが(長い)、今作も鬱の技術とセンスが爆発した良盤だった。”最新作が最高傑作だ”と豪語するミュージシャンは時々いるが、鬱に関しては間違いなくそうであると全アルバムを聴いていて強く思う次第だ。だが、このアルバムは確かに鬱の作品としては素晴らしいのだが、バンドの音源として良いかと言われたら首を傾げざるを得ない。はっきり言ってしまうなら、このアルバムからは鬱のソロ作品とほぼ同じ印象しか受けず、バンドとしてのセッションを感じられなかったのだ。まだ初音源なので断言するには早いのだが、現時点ではまだ”鬱Pのサウンドを演奏している集団”の域を出ていない。せっかくのバンドなのだから、たとえ作詞作曲ミックスマスタリングおまけにアートワークまで(!)全て鬱が手掛けたのであっても、せめて宅録とは違う迫力というかオーラを感じさせて欲しい。今後さらに活動を続ける中で、その方向性が磨かれていく事を期待するばかりである。

リリース: 2015/12/31 (コミックマーケット89)
試聴: ニコニコ動画
販売: 会場限定

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前作「Works 11-14」より1年4ヶ月、コミケ3回分というHSPとしては比較的短いスパンでリリースされたニューアルバム。オリジナル曲「Isotext」「Shiro」とリメイク「Incarnation(2015 Remix)」、そして恐るべき再生数を記録したス◯夫Remix(EDM)は既にニコニコ動画とYouTubeに投稿されたトラックだ。さらにClean Tearsリミックスアルバム参加音源である「Inverse Relation(HSP Remix)」を含め既出音源は5曲、新曲・新リメイクを4曲加えた計9曲60分、HSP流のプログレッシブトランスを存分に堪能できるアルバムとなっている。




前作「Works 11-14」では、最も得意としていたプログレッシブトランス/プログレッシブハウスのほかに、ドラムンベースやEDMといった他ジャンルを強く意識した楽曲が多く収録されていた。元々”鼻そうめんP”名義としては1ジャンルにこだわる姿勢は見せておらず、「YOUTHFUL DAYS GRAFITTI」「Stop Me」など80年代ディスコ・ミュージックへ舵を切った楽曲も投稿している(一応同じダンスミュージックではあるのだが)。その一環で、今までリリースして来なかった様々なジャンルを行ったり来たりして遊んでいるかのように見えたのが2013~2014年であり、その活動歴がおおむねカバーされているのが「Works 11-14」なのだ。なのでサウンドは同一人物が作ったものとは思えないくらいバラエティに富んでおり、これはこれで楽しいのだが裏を返せば各曲がまるでばらばらで、一枚のCDにまとまっている意味を感じさせないものとなってしまっていた。

前置きが長くなったが、今回の「Works 15」は前作よりはるかに”HSPらしさ”を実感できたアルバムだった。今作ではアルバムの随所にEDM(狭義)の要素を感じさせるトラックが多く、特にブレイクのあざとさはEDMの教科書に載せられそうなほど分かりやすい。しかし、よくよく聴いてみると曲の骨格はHSPの十八番であるプログレッシブトランス/ハウスである事が分かるのだ。しかもただ繋げただけではなく、トランス・ハウスを引き立てる調味料としてEDMをちょっと混ぜている、といった塩梅となっており、HSPなりの試行錯誤・創意工夫が見て取れる。以前、Tr.4「Incarnation (2015 Remix)」が投稿された際に、定期寄稿しているフリーマガジン「DAIM」にてレビューをしたことがあるのだが(→Twitter)、その中で自分は”トランスの骨格を持つ曲でさえもEDMを匂わせてくる辺り、完全に路線変更したんだなと思わされた。”と記述したのだが、今なら言える、そんなことはないと。これは路線変更などではなく、もっと高い次元での融合だ。ただ繋ぎ合わせただけではない、音に対する並外れた好奇心と技術、そしてセンスを持ち合わせたHSPならではこその、自らの作風の進化した形を示していたのである。

アルバムを通して聴いていると、ジャンル融合の取り組みは全体として成功しているという印象を受けるのだが、中でもTr.6「Shiro」が素晴らしい。9割方がHSP得意のプログレッシブトランスであり、歌モノならではのクサいまでの叙情性で自称音楽おじさん達を軒並み黙らせる美しさなのだが(特にBメロがいいぞ)、ブレイクで一旦落としてからの展開は見まごうこと無くEDMなのだ。そこから何の違和感もなく再びトランスへと繋いでいるという構成に気が付いてからは、自らの外部にあったジャンルを完璧に自分のものとしたHSPの神業にただひれ伏すしかなかった。

ネタ枠であるTr.3「Su◯eo 2015」とTr.8「Miku-San-Noise」は頭の先から爪先まで思いっきりEDMなのだが、それを除くと今作は収録曲のジャンルが大きく乖離しておらず、最後まで安心して聴けるところもGood。Tr.6「Shiro」の美しさは言わずもがな、Tr.2「Isotext」も先ほど述べた”融合”を高いレベルで実現しており気持ち良い。Tr.7「Inverse Relation(HSP Remix)」はClean Tears作詞曲だが、たとえHSPのビートが鳴っていても歌の節回しはまさにClean Tearsであり、とても新鮮に聴こえる。Tr.9「Acrossgust (2015 Remix)」は今回が初のリメイクとなるが、ハウス色を強めておりこちらもまた新鮮な印象を受ける。最初から最後まで通して聴いて大いに満足できるだけでなく、各曲のキャラがいい具合に立っており完成度の高いアルバムだった。


新年あけましておめでとうございます。今年も当ブログをよろしくお願いします。
早速ですが、2015年ベストアルバム20選を公開します。今回は全ジャンルぶっこみ&順位付け無しです。そして順不同。
本当は昨年のうちに公開したかったけど、選び終えた時点で放置してたら初日の出を迎えてました・・・。



Amahisa / Reconstruct-spica

リリース: 2015/10/4
試聴: ニコニコ動画 / Soundcloud
販売: BOOTH

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1枚丸ごと泉和良の小説「spica」へのオマージュが詰め込まれている。それだけではなく、音楽は泉和良の手掛けるゲームプロジェクト「アンディー・メンテ」からのアレンジとなっており、同一人物が別々に発表した小説と音楽を用いて「泉和良」という世界を改めて構築した類まれなるコンセプトによるものと言える。


eicateve / LOVE

リリース: 2015/4/26 (M3-2015春)
試聴: Soundcloud
販売: Diverse Direct

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CDをトレイに入れ再生ボタンを押した瞬間、「これだ!!!!これが俺の聴きたかった音楽だ!!!!」と思わずガッツポーズ。そのようなハマり方をしたアルバムは、今年はこの1枚だけだった。四つ打ち楽曲のダークさも素晴らしいが、ビートのない曲のドロドロさ加減が何とも素晴らしい。


k-waves LAB / la malgrava peto

リリース: 2014/12/30 (コミックマーケット87)
試聴: Soundcloud

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前年暮れのリリースなので(大晦日の前日)ほぼ2015年リリース。種々の民族楽器を操るk-waves LAB。活動の大部分は東方を中心としたアレンジCD制作と”演奏してみた”動画制作だが、このアルバムは氏のオリジナル曲の集大成となっている。タイトル曲「la malgrava peto」は当初初音ミクボーカルとして公開され、全編エスペラント語の歌詞が話題となった。詳しくは個別レビューにて。

→ 【アルバムレビュー】 k-waves LAB / la malgrava peto


悠木碧 / イシュメル

リリース: 2015/2/11
販売: Amazon.co.jp / mora(24bit/96kHz)

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収録曲「アールデコラージュ ラミラージュ」を聴いてみれば分かるが、これほど強烈な楽曲が収録された声優アルバムにも、またこれほど強烈な楽曲をコンセプト内部に完璧に組み込んだアルバムにも滅多に出会えない。bermei.inazawaや藤林聖子といった超が付くほど個性的な面々を、悠木碧自身が構築した完璧な布陣に則って配置しているのだ。だからこそ、これら作家陣が腕を存分に振るって作家性を発揮するほど、アルバムの世界観はより強固になっていくのだろう。


ハイスイノナサ / 変身

リリース: 2015/3/11
試聴: YouTube
販売: 残響record Online Store
TOWER RECORD ONLINE / Amazon.co.jp / iTunes Store

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ハイスイノナサは前作「reflection(→YouTube)」にて会心の一撃を放った。この曲で私は、このバンドは自らの作風を完成へ導いたと確信し、その後の活動に大いに期待した。それから二年半が経ち、目立った活動をしなかった後にリリースされたのがこの曲。何ということだろう、このバンドはあの時自ら得た”完成形”を完全に捨て去った。そして放った渾身の挑戦作がこの「変身」なのだが、これまでで一番クールでテクニカルで、かつバンドの色にかっちりハマった曲であると断言するに足る完成度だった。3曲入りシングルでありながら、アーティストとしての挟持を示した極めて重要な、そして輝かしい一枚である。


Aimer / DAWN

リリース: 2015/7/29
試聴: YouTube
販売: Amazon.co.jp / mora(24bit/96kHz)

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ハズレのない安定感、というのはポップ・シンガーのアルバムを評価する上で外せない軸だが、Aimerはその優れた表現力でそこから先の世界をも見せてくれる。菅野よう子が手掛けた深淵を極める「誰か、海を。」や、あまりに渋いロックバラード「Brave Shine」の2曲をアニソンとしてリリースした功績は極めて大きく、それらが1枚のアルバムに収まっているという事実には心底身震いする。


光田康典ほか / クロノ・トリガー&クロノ・クロス アレンジアルバム ハルカナルトキノカナタへ

リリース: 2015/10/14
試聴: YouTube
販売: SQUARE ENIX e-STORE (CD / LP)
Amazon.co.jp / mora(24bit/96kHz)

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光田康典による「クロノ・トリガー」「クロノ・クロス」の音楽は発売から長い年月を経た今なお高い人気を誇るが、これまで公式のアレンジアルバムは変化球の「THE BRINK OF TIME(→Amazon.co.jp)」しかなかった。初の公式リリースである本作の持つ”重み”は、リリース数に恵まれたFFやDQとは根本的に異質である事が感じられる。特に1曲目「時の傷痕 ~ハジマリノ 鼓動~」は、光田の盟友で光田作品に長年関わってきたZABADAK・吉良知彦によるアレンジだが、込められたありとあらゆる感情がまさに爆発しているかのような渾身の一撃となっており必聴。


きくお / きくおミク4

リリース: 2014/12/30
試聴: YouTube
販売: Amazon.co.jp / とらのあな / BOOTH

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詳しくは昨年書いた個別レビューに譲るが、これまでで最も”アルバム単位で聴かせる”ことを意識し、それが成功した1枚であると言える。特に5曲目「Giant」と9曲目「フラットライン」はこのアルバムの流れだからこそ生まれた名曲なのだろう。

→ 【アルバムレビュー】 きくお / きくおミク4


ypl / 輪形彷徨

リリース: 2015/1/11
試聴: ニコニコ動画 / YouTube
Free Download: Bandcamp

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アルバムとしては2009年2月の「Garbage Collection」以来6年ぶりとなる2nd。軽いと思いきや各所のフレーズが脳裏に焼き付く、オンリーワンのエレクトロニカ。この不思議な緊張感は、おそらくyplの作品でしか味わえないだろう。そして、このアルバムは驚くべき事にフリーダウンロードで公開されており、FLAC/ALACでダウンロードすれば24bit/48kHzのハイレゾ形式で入手できる。実を言うと去年全曲レビューを書こうとして挫折した1枚なので、今年機を見つけてリベンジしたい。


邪界ニドヘグほか / in the Dark 2

リリース: 2015/10/26 (M3-2015秋)
試聴: ニコニコ動画 / YouTube
販売: TOKYO FUTURE MUSIC

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私も参加しているフリーマガジン「DAIM」で紹介した一枚(→告知)。絵と音楽で強烈な個性を放つ邪界ニドヘグがコンピレーションを企画したらこうなった。本人の作品から受ける印象に違わぬ真っ暗な電子音楽を15曲存分に堪能できる。主宰による参加者の紹介コメントも充実しており、誠実な人柄が伺えるところもポイント。なお、アーティストとしての邪界ニドヘグに興味がある方は、同じく2015年にリリースされ氏の歴史が凝縮されているソロアルバム「ケダモノ」も併せておすすめしたい(→YouTubeで試聴)。


Bjork / Vulnicura

リリース: 2015/4/1
販売: Amazon.co.jp / mora(24bit/96kHz)

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発売前にリークに遭って配信のみ急遽大幅前倒しでリリースした、という事件も記憶に新しいビョークの最新作。事実、私もiTSで先行配信を買い、非常に良かったため後日moraでハイレゾでも買っていたりする。それはさておき、今作の最大の魅力は久しく味わえなかった”ビョークの人間味”だろう。前作のミニマル路線も嫌いではないが、やはり「Volta」のような人間の呼吸が聴こえて来るような生々しい作品の方が好きだ。「ハートブレイク」がテーマであり、アルバムの前半は愛し愛された甘い記憶、後半は見捨てられ悲しむ展開となっている。その表現はとても率直で、明から暗への転換も非常に劇的であるため、このアルバムには場面の想像や感情移入がしやすい。サウンドも分かりやすさを志向しているのだが、その深さもまた伊達ではないところは流石ビョークと言うべきか。全編ストリングス・アレンジの「Vulnicura Strings」や、ライブアルバム「Vulnicura Live」と関連作のリリースが続いている。


Arca / Mutant

リリース: 2015/11/18
販売: Amazon.co.jp / mora(24bit/44.1kHz)

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直近ではBjorkの新作「Vulnicura」のサウンドプロデュースを手掛けたArca。1年ぶり2枚目となるMUTEからのフルアルバムは、前作を聴いた人間ほど驚くかもしれない。「あれ、Arcaってこんなに聴きやすかったっけ?」というのが私の率直な感想だ。これはもちろんいい意味で言っており、音のひとつひとつが実に攻撃的で、視聴者に積極的にアピールしてくるのだ。また、非常に貪欲なサウンドである事も付記したい。貪欲だからこそサウンドを磨いて更なる深みを求め、貪欲だからこそ展開の出し惜しみをしない。”展開の出し惜しみ”とはテーマの誕生から完結までのスパンを伸ばす事を指し、それをしていない今作ではアルバム1作の中でいくつものテーマが生まれては終わり、違うテーマが次々と生まれていっている。それほどまでに濃密な時が流れているのだ。まさに感性の奔流、魚のように跳ねて回る電子音の水しぶきまでもが聞こえてきそうなフレッシュさをも感じられる。Arcaは自らの生命観を最大限に投影してこのアルバムを作り上げたのだ。聴いていて感じる”美しさ”とは、まさに生命そのものの”美しさ”に他ならない。


浜渦正志 / LEGEND OF LEGACY Original Soundtrack

リリース: 2015/3/18
試聴: YouTube(1st PV)
販売: MONOMUSIC OFFICIAL SHOP
ディスクユニオン / タワーレコード / HMV / 芽瑠璃堂

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浜渦正志単独名義のゲームサントラとしては、あのFF13以来5年ぶりとなる待望の一枚。2枚組95分とRPGサントラとしてはコンパクトながら浜渦正志のエッセンスが凝縮されており、サントラ全体の流れもひとつの音楽物語として秀逸だ。そして、ラストの主題歌「エンディングテーマ~旅人のうた~」は浜渦のユニット”IMERUAT”でもコンビを組んでいるMinaが歌っているのだが、非常にミニマルで静かである意味で主題歌らしさは無いものの、その危ういバランスの上で成り立つ美しさは本当に奇跡的としか言いようがない。手頃な長さであることもあり、今年リリースされた中で一番、最初から最後まで通して聴いたサウンドトラックである。そして、何度繰り返し最後まで聴いても、また最初から聴き直したいと思えてくるのだ。


川田瑠夏 / TVアニメーション ハロー!!きんいろモザイク サウンドブック「また、会えたね。」

リリース: 2015/6/17
販売: TOWER RECORD ONLINE / Amazon.co.jp

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コトリンゴが「幸腹グラフィティ」の劇伴を手がけるなど、いわゆる「日常系アニメ」の音楽の幅が少し広がった感のある2015年だが、今年特に聴きこんだのは「ハロー!!きんいろモザイク」(2期)のサントラだ。「ご注文はうさぎですか?」と同じ川田瑠夏による仕事だが、ヨーロピアンなイメージの”上品さ”と日本の日常生活を思い起こさせる”ゆるさ”が絶妙なバランスで混じり合った良盤だ。ほどよい品の良さから日常生活における癒やし効果も絶大であり、今年はこのアルバムに救われた事が何度もあった。同じく川田瑠夏による「ご注文はうさぎですか?? オリジナル・サウンドトラック(→Amazon.co.jp)」(12月27日発売)はどちらかと言うとヨーロピアン路線が強めで大作オーラを感じさせるので、両方聴いて違いを確かめてみるのも面白いかもしれない。


菊田裕樹 / 死者の代弁者

リリース: 2014/12/30 (コミックマーケット87)
試聴: ニコニコ動画

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前作「女子真空管交響楽(→Bandcamp)」に続く1トラック・アルバム。前作では先行した強烈なビジュアルイメージがあったが、今作は「20世紀」という主題が設定されているのみ。”パリ万国博覧会に始まり、科学時代の到来、二度の大戦を経て、未曾有の繁栄、進歩と調和に至る、20世紀という時代の本質を、メロディとハーモニーの妙を凝らしながら菊田裕樹が活写します!”とは菊田裕樹自身によるこのアルバムのコンセプトであり、映画やドキュメンタリーのような重厚なオーケストラが響く。金管と弦楽器による印象的なフレーズは曲中何度か登場するが、その度に受ける印象が異なるのは、1曲47分25秒という長い時間一心に聴きながら様々な思いを巡らし、それぞれ異なる思いでフレーズと再会するからなのだろうか。前作でも思ったが、反復の美学とは曲自体の構成美よりも、むしろ様々な方向へ移ろうリスナーの思考・感情を煽り立て、増幅させるところにあるのではないだろうか。


荒御霊 / Deepdream of Doppelganger

リリース: 2015/10/12 (科学世紀のカフェテラス)
試聴: Soundcloud
販売: メロンブックス / アキバホビー

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荒御霊による東方アレンジアルバム。美しいジャケットイラストに惹かれて試聴したところ、これまた美しいダークアンビエントだったため購入。荒御霊は基本的にテクノ(狭義)アレンジで活動しているが、こうして時折アンビエント路線に寄ることもあり、2013年夏の「心娶 kokorometry(→特設サイト)」のような快作をリリースしたりもする。

今作におけるメインの題材である「秘封倶楽部シリーズ」は元々弾幕ゲームではなく音楽+小説作品であり、しかも主役の2人は幻想郷ではなく現実世界の人間である事から、その二次創作は東方界隈でも少々特殊な文脈で生まれてきている事が想像できる。また、同様に題材となっている「東方深秘録」は弾幕ゲームであると同時に秘封倶楽部とも深い関連にあり(ジャケットに描かれた少女は深秘録の新キャラで秘封倶楽部関係者の「宇佐美菫子」だ)、またシリーズ最新作「東方紺珠伝」のアレンジも複数収録されている事から、荒御霊はこのアルバムで秘封倶楽部周りの世界観を一旦整理・再構築しようと試みたのではないか、と勝手に想像している。


成田勤・植松伸夫ほか / GRANBLUE FANTASY BATTLE MUSIC TRACKS & STORY MUSIC TRACKS

リリース: 2015/11/20
販売: Cystore(BATTLE / STORY)


Cygamesによるソーシャルゲーム「グランブルーファンタジー」のサウンドトラック第2弾は、戦闘曲集「BATTLE MUSIC TRACKS」とフィールド曲集「STORY MUSIC TRACKS」に分けて同時リリース。2014年8月リリースの第1弾(→Cystore)は、2014年ベストサントラ第1位とするに些かも躊躇しない完成度だったが、今作は場面の性質で盤を分けたためかアルバム全体の展開のメリハリは乏しい。その分、バトル曲なら勢い、フィールド曲なら情景感といった一点特化の構成となっているため、楽曲・アルバム双方の鋭さは大いに増している。

"STORY MUSIC TRACKS"のラストトラック「遥かなる旅路、天翔ける戦線」は、第1弾でラストを飾った名曲「天に散りし覇者との邂逅」を髣髴とさせる長尺のプログレ風味でたっぷりとした余韻を味わえるし、 "BATTLE MUSIC TRACKS"のボス曲オンパレード(ヤバイ)の中で、「リヴァイアサン・マグナ」は前作のフィールド曲にして傑作バラード「アウギュステ列島 -白沫の瀑布-」のメロディを激しい民族調ロックにアレンジしており度肝を抜かれた。アルバムとしての完成度では前作が突出しているが、第2弾となる今作も楽しみどころが多く、総合的にはかなり楽しめた。音楽でグラブルを凌ぐであろうスマートフォンゲームはまだまだ現れないかもしれない。


bermei.inazawa / Tone\bermei.inazawa collection

リリース: 2015/4/26 (M3-2015春)
試聴: YouTube
販売: Amazon.co.jp / メロンブックス / Diverse Direct

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bermei.inazawaのベストアルバム。2011年リリースの「Chords(→YouTube)」が商業音楽からの選集である事に対し、本作「tone」は同人音楽からの選曲となっており、タイトルやアートワークも対になっている。時空を超えて集った13曲は爽やか路線からダーク路線までいずれも濃密なものであるが、本作の肝は何と言っても収録曲の製作年月の幅だ。最新のものは2013年暮れのTr.10「今際」で、最古のものはなんと1999年8月の「輝く季節へ」だ(曲名でピンと来た方は是非ググッてみてほしい)。これら新旧の2曲を並べて聴いても同一人物の作品として一切の違和感を感じさせない辺り、bermei.inazawaの"ぶれなさ"と"深さ"を改めて確認できた次第である。


Rayark / 『Deemo』Song Collection

リリース: 2015/7/15
販売: TOWER RECORDS / Amazon.co.jp / iTunes Store

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台湾Rayark社によるスマートフォン向けリズムゲーム「Deemo」初のサウンドトラック。まるで絵本のようなビジュアルイメージ、哲学的で感傷的なストーリー、そしてエレクトロニカやピアノ曲を含む静かな楽曲群・・・。一般的なリズムゲームのイメージからは大きくかけ離れた異色づくしのタイトルであるが、そのすば抜けたセンスと作品自体の質の高さで世界規模の人気を得ている。日本人ミュージシャンも数多く楽曲提供しており、Mili「Yubikiri-Genman」は歌詞が全編日本語、Rabpit「Saika」は三味線をフィーチャーするなど日本色も散見される。特にMiliの楽曲は当サウンドトラックに複数収録されており、当ブログでもアルバム「Mag Mell」を紹介した記事を掲載している(→当該記事)。


Stripeless / MIKUHOP LP2:Border

リリース: 2015/10/25 (M3-2015秋)
販売: Bandcamp / TOKYO FUTURE MUSIC

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前作「MIKUHOP:LP」から1年を経てリリースされたボーカロイド・ブラックミュージック・コンピレーション第2弾。今回は物理媒体と配信の2形態でのリリースとなる。物理媒体と言ってもCDだけではなく、カセットテープとSONOCA(カード形式)も含めた合計3種類で頒布されている。参加アーティストは「とりあえずここにいる人抑えときゃこの界隈の音はおおむね分かる」と言えるほど幅広く集まっており、十人十色のありとあらゆる”ブラックミュージック”が一堂に会する様はまさに圧倒的だ。中途半端なトラックはひとつもなく、全収録曲が自らの”正義”を掲げてリスナーの脳髄に殴り込んで来る。このアルバムはいずれ全曲レビューをしたためたいものだ。


ニンジャスレイヤー フロムコンピレイシヨン 忍&殺

リリース: 2015/7/22
販売: KING e-SHOP / Amazon.co.jp
CM: YouTube

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リリース: 2015/11/25
販売: KING e-SHOP / Amazon.co.jp

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2クール半年間に渡り様々なものを残していった「ニンジャスレイヤー」アニメ版。ニンジャたちの暴虐の数々は視聴者一人ひとりの心に残るが、毎回異なるED曲を起用した豪勢な演出はコンピレイシヨンCDとして残り続ける。主に日本のアンダーグラウンドシーンで活動するロックバンドが軸となっているが、その選定は原作者コンビとほんやくチームによるもの。どこからこれほど濃い面々を集めたのかと思うほど、放送時は毎回のED曲が楽しみで仕方なかった。ボーナストラックとしてMONDO GROSSOの大沢伸一による劇伴が数曲収録されておりこれはこれでお得感があるのだが、サントラ本編は単行本特装版(プレミアで高い)やBlu-ray特典CD(実際高い)でしか聴けないため少々ハードルが高い。しかも重要な曲はだいたい特典サントラの方にのみ入っている。KABOOM!!! 今年春からの地上波放送を機に、サントラ周りに新たな動きがあることを願うばかりである。


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