先日のM3で買ったCDのレビュー、どれから書こうか悩みに悩んで結局まだ書けていないという何とも情けない話ですが、つい最近知ったこのバンドのアルバムがクリーンヒットしたので(M3とは無関係ですが)一筆書かせて頂きます。

ポーランドで結成された4人組インストゥルメンタル・バンド「Merkabah」。ざっと調べたところFacebookとBandcampしか見当たらず途方に暮れていたのですが、その最新作「Moloch」が凄まじいの一言でした。



Merkabah / Moloch

リリース: 2014/3/28
ジャンル: プログレッシブ/ノイズ/エクスペリメンタル/
サイケデリック/音響/ロック
Download: Bandcamp

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とある知人が「downy好きならいける」と言ってた通り、しょっぱなからギターもベースもドラムもドロッドロ!!!奈落の底へ急転直下するかのようなデロンデロンな演奏には、ちょっと口では言い表せないくらいの怨念が込められている。重く、暗く、アブストラクトさを徹底した録音により、そのサウンドからは闇以外のものが完全に弾き出されてしまっているのだ。純粋な闇に最初は恐怖を覚えるものの、徐々にその美しさに惹かれていき、最後まで右も左も分からないままあっという間に50分を聴き終えるのだ。

・・・しかし、もし、このバンドの要素がこれだけだったとしたら、これといった個性もないありふれたサウンドだったという感想で終わっていたと思う。そこに華を添えるのがサクソフォーンだ。こいつがアルバム全編を通してとにかく暴れる。比喩でも何でもなく、金切り声を上げるように叫び回る役目を貫き通すのが、このバンドにおけるサックスの立ち位置なのである。プログレッシブ路線の粘着質ながらも硬派なロックサウンドにサックスが添えられることで、そのサウンドには一気に人間味が増す。さながら、暴走する機械の上で一人の人間がよがり狂っているかのような、強烈なリアリティを感じることが出来るのだ。だからこそ、このバンドはプログレッシブかつテクニカルでありながら、むせ返るような爛れた音像を放てるのだろう。ああ、救いようがない。どうしてくれるんだ。最高すぎるじゃないか。



さらには、このバンドの音にビビッと来た理由はこの人間味あふれる凶暴性だけではない。その暴力の果てに、このサウンドは音響性を手に入れているのだ。音響というジャンルはアンビエント・エレクトロニカとセットにされることが多い、比較的落ち着いた電子音楽の一種であり、一見プログレッシブでジャズでノイズなロックとは関係なさそうだ。

ところで、このアルバムは全体を通して「一様に暴力的」であるため、途中で曲調がガラリと変わったりとかはしない。最初から最初まで、このあり得ないテンションで突っ走るのだ。そのパワーは1曲目の時点で既に恐怖を覚えるものであるが、聴いていくにつれ少しずつそれが「当たり前の光景」に見えてくる。2曲目を聴き終える頃には、2曲目の持つ衝動が当たり前のものとなり、じわりとパワーアップした3曲目にまた恐怖する。その繰り返しを経て、少しずつ少しずつボルテージを上げられたリスナーの精神は、ラストの8曲目に到達した時点で、自分でも気が付かないレベルにまで高揚させられているのだ。淡々とした暴力により徐々に麻痺させられていく聴覚。これはまさに「恍惚」と呼べるものであり、そしてそれは「音響」という電子音楽の神的な深さとも通じる、と筆者は考えている。そう、このバンドのサウンドに神的な深さを与えているもの、ただの暴力的なだけではなく、人の心に深く刻まれる「温度」をもたらすものこそ、導き手であるサクソフォーンの悲鳴なのだ。



このバンドはボーカルのいないインストゥルメンタル編成となっている。しかし、聴けば一目瞭然だろうが、サクソフォーンが完全にボーカルの立ち位置を占めているため、アルバムを聴き終えた後もインストゥルメンタル・バンドという感覚は得られなかった。人の歌声に劣らない、いやそれ以上のメッセージを込めてサックスの叫び声はリスナーの耳を叩き付けることだろう。しかしこのことは、裏を返せばサックスを中心としたサウンドメイキングとなっていることを意味し、同時にそれ以外のパートがこれと言って主役を張ることも少ないということになる。記事の冒頭でdownyを引き合いに出したが、downyを「ぶっとんだ4人の個人が全員主役を張るバンド」とするなら、ポーランドのMerkabahは「1体の巨大生物がのた打ち回るバンド」と表現できそうだ。もちろん頭部はサックスが該当する。しかし、体を成すギター、ベース、ドラムは総体としてとんでもない物量と密度を形作っており、主役ではないが脇役と言うにもあまりに力がありすぎる。うーん、なんて言えばいいんだ。全員ラスボス?

50分で1曲と言えるほど一体感のある展開を見せ、ラストのラストでがっちり締めて最高の余韻をくれる素晴らしいアルバムなのだが、なんとBandcampではName Your Priceで買えてしまう。つまり最低ゼロ円で入手できてしまうのだ。しかも望むならCDと同じ音質を用意してくれるという。恐ろしい時代だ。生まれた時代への感謝を込めて、このアルバムを全身全霊を込めておすすめする次第である。



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