C87で買った作品のレビュー、今回はbakerさんのVOCALOIDベスト盤「changed man」です。

初音ミクブーム初期から現在に至るまで、足掛け7年以上ボカロPの活動を継続しており(創作活動自体はその倍以上続けていますが)、ベテラン中のベテランとも言えるbakerさんですが、これまで発表してきた主だった楽曲を網羅したベストアルバムは、同人でも商業でもリリースされていませんでした。そんな中、最初期の「celluloid」から現時点での最新動画「君が君が」までのVOCALOIDオリジナル12曲に、新曲「changed man」を加えたベストアルバムが、同人CDとしてついにリリースされたのです。



baker / changed man - baker vocaloid best 2007-2014

リリース: 2014/12/30
ジャンル: ポップス・ロック・エレクトロ
販売: MOtOLOiD Shop

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こうして曲目を眺めてみると、改めてbakerがシーンに刻んだものの大きさと、その時間の長さを再認識させられる。07年の「celluloid」「サウンド」は言うまでもなく初音ミクブーム初期を象徴する曲だが、アニメ調のキャラクターを意識しない”普通の音楽”も行ける可能性を示したという意味でもエポックメイキングだった。09年の「」は、ちょうどビクターからのメジャーデビューが決まった頃の曲だ。今は亡きレーベル・LOiDの全面バックアップの元でアルバム「filmstock」をリリース、交友のあったノッツ(若干P)のアルバムとほぼ同時期のリリースだったことも記憶に新しい。一切飾ることなく、bakerの生き様を音楽業界に叩き付けた貫禄の一枚だと筆者は今でも思っている。その後しばらくして何故かアルパカにハマり、二言目にはアルパカを推し残りの人生をアルパカとして生きる決意すら感じられた時期もあった。その経験は音楽にも活かされ、「ARPK」と「夏に去りし君を想フ」、そして”本編2曲+ボーナストラック11曲”という驚天動地のアルバム「AREPK」を生み出したのだった。13年の「君が君が」は、ベスト盤リリース時点でのオリジナル最新動画なのだが、これ以降はニコ動よりもSoundcloudの投稿数が増加しており、活動の主軸を移していることが確認できる。そして新曲の「changed man」。オリジナル曲は14年夏のアルバム「悪 EP」等もありそれなりに作っているのだが、VOCALOIDを使ってロック・ポップスを作ったのはおそらく久々だと思われる。

こうしてbakerの曲を語っていると、どうも曲自体よりもそれに付随する歴史や出来事に偏ってしまう。bakerという作家をリアルタイムで知っていて思い入れもそれなりにある筆者としてはある意味自然な事なのだが、音楽そのものについては語る機会があまりなかったので、ここで積極的に語っていこうと思う。bakerの楽曲は大きく3つのジャンルに分けられる。ロック、ポップス、そしてエレクトロだ。ポップスでは「carol」のようなノリノリな(?)曲もあるが、中心となるのは「celluloid」「カナリヤ」「もう一人の僕へ」「sample」等のバラード路線だろう。その歌詞は基本として後ろ向きであり、感傷と後悔で彩られた王道サウンドはJ-POPを知る人ならグッと来ることだろう。ロックは「サウンド」「」を筆頭に、オルタナ寄りの轟音が気持ちよく響く重めのナンバーが特に好みだ。他にも、バラード曲はポップスを軸としているがロックサウンドの比重が高いものが多く、どちらかと言うとロックとして認識している人も多いかもしれない。ちなみに筆者は両方の文脈で楽しんでいる。そしてエレクトロ。どちらかと言うと「EDM」と言った方がしっくり来るかもしれない。活動初期では作っていなかったが2010年に入り「gain」「般若心経エレクトロ」等でぼつぼつ投稿が増え始め、「ARPK」でついに転換点を迎えた。動画の内容は徹頭徹尾ギャグテイストで、多くのリスナーは”アルパカの曲”以上の認識をしていないかもしれないが、この曲と「夏に去りし君を想フ」はゴリッゴリのエレクトロとしても非常に気持ちよく聴けるため筆者は大好きだ。もちろん、真正面から勝負したエレクトロ・ナンバーであるところの「This love will not be successful」も掛け値なしにカッコイイのでおすすめである。ちなみに「ARPK」のボーカルは巡音ルカだが、あえて英語DBで日本語を歌わせるという迂遠な手順を取ることで更にギャグ路線を邁進しており、もうずるいとしか言いようがない。



このアルバムはあくまで「bakerがVOCALOIDとともに歩んだ道程の記録」であり、BMSまで含めた長いキャリアの中ではほんの一部でしか無い。しかし、シーンにとって欠かせないピースとなったbakerの活動履歴が、ここまで横断的に記録したアルバムは未だになかった事を考えても、このベストアルバム(シングルコレクションと言ってもいい)がリリースされた意義は大きい。だからこそ、筆者は声を大にして問いたい。なぜ今までこういうアルバムが商業流通で出なかったのかと。メジャーアルバム「filmstock」は当時の主だった楽曲をおおむね収録していていたが、いかんせん「celluloid」から2年程度しか経過していなかった上に、bakerはさほど多作というわけでもなかったから、「filmstock」はベストアルバムというよりオリジナルアルバムの色が強い作品だ。2014年も末に差し掛かり、ようやくオリジナル曲の数もある程度溜まった頃合いだと考えると、ベストアルバムを出す時期としては理想的だったのだろう。しかし、こういう節目のアルバムこそ、イベントの数日前にクロスフェード動画を投稿して適当に宣伝するのではなく、商業レーベルと組んでより多くの人に知らしめた上でリリースして欲しかった。

同人CDの欠点としては流通期間の短さが挙げられる。これからもbakerの音楽を知り、もっと深く触れようというリスナーは断続的に現れるだろう。そのための入り口として最適なのがベストアルバムなのだから、このCDを求めて通販ページを探したり即売会に行く人も決して少なく無いだろう。ベスト盤は、1枚のアルバムとしてだけでなく、作家の名刺・カタログとしての役割も期待されるものだ。しかし、同人作品はすべてのコストを作家が負うため、枚数が少なかろうとコストは決してバカに出来ない。したがって、安定した生産というものを望みづらいのだ。何枚刷るか、多めか少なめかを決めるのは博打以外の何物でもない。なので、リリースから数ヶ月で完売し、再生産もされないためその後に知った人はもう買えない、という悲しいすれ違いが同人音楽では無数に発生しているのだ。bakerのベストアルバムにはそうなってほしくない、と考えるのは独りよがりの杞憂なのだろうか。だが、同人音楽には「他人の都合に左右されない」という何にも代えられない大きなメリットがある。出したい時に出したいものを出すのは、決してベストアルバムとて例外ではない。同人CDとして出したいと思ったからこそのリリースなのだろう。そう考えることもできるので、bakerのVOCALOID曲が更に広まって欲しいと考える筆者としては本当に複雑な心境なのだ。

07年~08年の極初期しかbakerの曲を聴いていない人にも、アルパカとエレクトロでブイブイやってた頃に知った人も、「君が君が」が殿堂入りしたことしか知らない人も。そして、BMS時代しか知らない人も、逆にEDMにシフトした後の非VOCALOIDの活動しか知らない人も。「bakerのVOCALOID曲」のほぼすべてが分かるこのアルバムを、是非手に取ってほしい。そのタイミングは早ければ早いほどいい。同人CDとして世に出た以上、買えるうちに買わないといつ買えなくなってもおかしくないからだ。リリースされた時期にこのアルバムを知ることが出来た幸運に感謝し、機会を探して手に入れるための努力をして欲しいと思えるほど”存在価値”の高いアルバムだと筆者は強く思っている。 

以下、アルバムの試聴動画と、ベストアルバムに収録されなかったものの筆者が大好きな曲、そしてつい最近聴いて大爆笑した曲を貼る。






C87で買ったCD・本の感想、今回は黒魔さんのニューアルバム「妄想探検記」です。

チップチューンを自由自在に駆使し、ポップスやロック、アンビエントなど様々な形の音楽を作るスタイルでコンスタントに活動しています。2014年夏の「想いで旅行記」はピアノを軸にしたアンビエント中心で、夢日記のような幻想的なコンセプトアルバムでしたが、今回のアルバムでは一転、チップチューンの魂を持った激アツ中二パワーが炸裂しています。



黒魔 / 妄想探検記

リリース: 2014/12/30
ジャンル: チップチューン
販売: メロンブックス

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黒魔の音楽は、チップチューンとイコールで結べると言っても過言ではない。ロック、ポップス、エレクトロニカ、アンビエント・・・様々なジャンルを手掛けている中でも、8bitの音色は随所で必ず現れ、どの曲でもこのシンプルながらも明るく主張の強い楽器が決まって曲の主軸を成すのである。アルバムのジャンル欄では便宜的に「チップチューン」と書いたが、実際には”楽器としてのチップチューン”といった方が正しいかもしれない。しかし、黒魔はチップチューンをただの楽器として扱っているわけではない。チップチューンといえばレトロゲームを連想する方は多いと思われるが、この「妄想探検記」の曲ひとつひとつにはおしなべて”物語”が詰め込まれており、その多くにゲーム音楽、あるいはゲームそのものへの憧憬を見て取ることが出来るのだ。そして、憧れるだけに留まらず、自らの身一つでどこまで斬り込めるかという挑戦心も感じられる。このアグレッシブさにより、収録されたあらゆるトラックが溢れんばかりのエネルギーを有し、”妄想”の赴くまま中二パワー全開で全方位に発散させる無敵のアルバムに仕上がっているのである。黒魔にとってチップチューンとは、まさにゲームの世界へ斬り込むために欠かせない存在であり、黒魔とチップチューンとの関係性は”空想の世界を探検する時の相棒”と言う事が出来るのだ。余談だが、そのチップチューンを一切使わず、代わりに全編でピアノを”相棒”としたアルバム「想いで旅行記」も大変素晴らしいのでおすすめである。

記事の上の方に「黒魔はチップチューンを軸としてさまざまな曲を作る」と書いたが、それはチップチューン以外の音が豊富でチップチューンが添え物になっているわけではない。実際、ほぼ全編に渡り、8bitのサウンドが大部分を占めた”ジャンル”としてのチップチューンが次々と繰り出されている。特に2曲目「Goodbye-bye Planet」や6曲目「第二空中実験」などは、そのサウンドが一部の隙もなく完成されておりまさにチップチューンというジャンルのお手本と言っても過言ではないトラックになっていると筆者は考えている。しかし、用いている楽器のほとんどが8bitであるにもかかわらず、黒魔のアルバムからは様々なジャンルの音楽が聞こえてくるのだ。ポップスならポップスの、ロックならロックの楽器編成が必要という常識は黒魔には通用しない。何故ならば、チップチューンを使い倒して様々な音楽ジャンルを編み出す、卓越した手腕と音色への愛情が黒魔の手中には在るからに他ならず、これこそが黒魔の本当の武器なのである。

ここで少し掘り下げて、上でちょっとだけ触れた”中二”についても文面を割く。なにぶんこのアルバムのタイトルが「妄想探検記」なものだから、収録曲もそれはもうエゴイスティックかつ夢あふれる楽曲が勢揃いである。しかし、作曲スキルもDTMの技術も高いものだから(この2つは区別して考える必要がある)、その世界観がどんなに独りよがりで自己中心的であったとしても、いやそうであるからこそリスナーはその”妄想”を大いに楽しむ事が出来るのだ。そして、黒魔の曲を高品質のエンターテインメントたらしめているのは、高い技術や優れたセンスだけでなく、その精神が強固な”中二性”を堅持しているからに他ならない。確かに腕は磨き上げた。しかし、その心はいつまでも初心を忘れることがないのだ。さらには、どうすればその中二の精神を作品に投影させられるか、かつ楽しい作品に出来るかを経験値で理解しているため、どれほどクサくダサいテーマであろうと本当にかっこいい作品に仕上がってしまうのである。しかも黒魔は、この記事の執筆時点で成人したかしてないかといった若さ。つまりこれから更に腕を磨き上げていくことは間違いないと見ていい。実に末恐ろしいことだ。



そういえば、記事を書いているここ数日、なぜか黒魔の名前がネット上で広く言及されている。黒魔の昔の動画と今の動画を比較する記事が大手メディで公開され、ねとらぼやヤフーニュース等の大手バイラルメディアにまで載ったため拡散の度合いがさらに増したためだ。その勢いは爆発的とも言えるもので、”今の曲”として例示されたニコニコ動画の作品は猛烈な勢いで再生数を増やしている。確かにあの「中二の俺が~」シリーズはいつ聴いても酷い。だがあれば、うp主の自虐性も含めてひとつのエンターテインメントとして成立しており(エンタメ作品に仕立て上げたのは間違いなくニコ動のコメント群だが)、生えまくった”草”も冷たい嘲笑ではなくあたたかい爆笑(熱い?)の類のものだったと筆者は理解している。あれは決して”創作における悪い例”ではないのだ。

そして、昔下手だったものが今では上手くなったので素晴らしい、という類の美談は作品を評価する際に”物語性”を与える強い材料となる。筆者自身も、レビューを書く時にこういった要素を探して文章を補強することがある。しかし、黒魔に関する報道が過熱していく様子を客観的に眺めるうちに、こういった類の材料は本質的には必要のないものなのだと実感するに至った。昔の曲がひどかろうが、逆に昔からとてつもなくいい曲を作っていようが、今の曲がよければ両者の扱いを区別する必要はないのである。これは筆者の普段の考え方と逆行するのだが、この流れで黒魔の楽曲が「中二の俺」の文脈でしか見られなくなったとしたら、その音楽性への正しい評価をする上で目眩ましになってしまうのではないか、と筆者は危惧している。取り越し苦労に終わるならそれに越したことはないのだが、チップチューンの使い手として独自の立ち位置を築き、ゲーム音楽家としてプロを目指している黒魔というアマチュア作家が、これからも自らの心の赴くまま創作活動を続けていき、素晴らしい作品を生み出してくれるなら、いちリスナーとしてこれ以上嬉しい事はない。これからも応援しています。



記事の中身はタイトルそのままです。むしろタイトルだけ読めばOKですね。


2015/4/25(土)~26(日)
THE VOC@LOiD 超M@STER 31(超ボーマス31)
http://ketto.com/tvm/

2015/4/26(日)
M3 - 2015春
http://www.m3net.jp/



Ω<どうやら今年も被ってしまったようだな・・・。
⊿<ああ、また幕張と流通センターをハシゴする日が来るのか・・・。 


開催期間の近い2つのイベント、これまでは奇跡的に重複しなかったのですが(連チャンとかはあったけど)、2014年ついにブッキング、そして今年もその流れは変えられませんでした。

ボカロ同人CDをたしなむ面々にとっては、片方を選択して涙を呑むか、両方はしごして気力を使い果たすかの厳しい二択を迫られることになります。あ、通販組はいつも通り待機でいいと思います。

しかし幸い、超ボーマスは2日間開催のため、1日目にフル参加して2日目はM3に向かうことで一応「両方参加」することは可能となります。

また、超ボーマスは10時開始、M3は11時開始なので、超ボーマスで買い物だけして爆速で流通センターに向かうと、M3のスタートダッシュに何とか間に合うことも出来ないことは・・・。考えるだけでも疲れるプランですが、両方のイベントで限定手焼きCDを狙っているような猛者には一考の価値ありかと。


そんなこんなで、なかなか悩みどころの多い同日開催となってしまったわけですが、筆者を含めた「超ボーマス2日目もM3も行く気満々」な皆様方のためにも、今後イベントに関する情報をできるだけ発信していく所存です。

筆者自身も、両イベントに何らかの形で関わるかもしれません。その時は別途告知させていただきます。 

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