リリース: 2011/6/12 分類: VOCALOID ジャンル: オルタナティブロック、エレクトロニカ |
今回も、THE VOC@LOID M@STER 16の新譜を紹介させて頂きます。
サークル「ゆにけむ」より、ゆにPのアルバム『Umbrella』。
ゆにPは以前1stアルバム『パラドックスガール』を紹介させていただきましたが、
今回の『Umbrella』は、そのわずか半月後に発表された2nd、という形になります。
現在、とらのあなで委託販売が行われています。
クロスフェード動画はこちらになります。
……それでは、1曲ずつ紹介させていただきます。
■Tr.1 Umbrella
……ボーカルは初音ミク。
このアルバムのタイトルトラックです。 ピアノが主軸の、優しくて力強いロック・ポップス。
離れてゆく、誰かを置いていく側の歌ですが、曲調のせいでしょうか、
とても力強い、絶望しながらも希望を捨てていない、まるで笑顔で歌っているような、そんなイメージの作品です。
そして、この曲はぜひ、ARiKEMさんとrYoYaさんの映像と一緒に、楽しんでください。
→ 初音ミク - Umbrella ‐ ニコニコ動画(原宿)
■Tr.2 Invisible Cockpit
……ボーカルは歌愛ユキ。
1曲目から一転して、ロックの要素は封印。
代わりに、オーケストラの荘厳な音を軸としたアンプラグドな音で構成されており、
ピアノが語り手のように随所を締めています。
曲に込められた意味に関しては、ゆにPご本人が詳細な解説を残されています。
なので、そちらを読まれることをオススメします。かなり読み応えありますよ!
■Tr.3 My Friend's Goodbyes
……ボーカルは初音ミク。
開放的だけど、どこか重みを残した、ゴリゴリのロックバラードです。
後に余韻を残すような、想像力をかき立てるようなアウトロは、ゆにPの真骨頂とも言えるでしょう。
■Tr.4 Zombiedog
……ボーカルは初音ミク。
Tr.3より更にハードに、さらにアグレッシブに攻めるロックです。
この曲の聴きどころは、このアルバムの中でも際立って攻撃的な歌詞、そして、間奏のラップ。
まさかミクスチャーになるとは思いませんでした。そして、あまりにかっこいい。脱帽しました。
■Tr.5 SEKAI
……このアルバムで、唯一のインストトラック。
四つ打ちのリズムに絡まるコーラスとエレキギター、そして主旋律を奏でる、打ち込みのバイオリン。
この雰囲気を例えて言うなら、ゲームの戦闘時に流れるBGMでしょうか。
ここまでのトラックで英気を養ったところで、この曲でエンジンがかかって。
そのまま後半へ向けて疾走するような、そんな立ち位置の曲に思えました。
■Tr.6 a Wonder of Aisya
……ボーカルは歌愛ユキ。
イントロのハープの美しい調べから、「それはね 不思議な不思議な物語」の歌い出し。
しかし、お話が進むにつれて、語り手がいつの間にか物語の主人公になってしまっていて。
いや、むしろ最初からそういう設定だったのかもしれませんね。
個人的には、歌詞の「おやつを食べよう」の一節が、とても愛らしくて好きです。
そもそも「歌愛ユキ」は、9歳の少女という設定のボーカロイドですしね!
■Tr.7 Odd Eyed Kingdom
……ボーカルは初音ミク。
このアルバムで唯一の六拍子の、ロック。
ミクから紡がれる、このアルバムの中では突出して饒舌な言葉は、「君」に手を伸ばして、必死に呼びかけ、エールを送っているのです。
では、この「君」とは、一体……?
■Tr.8 Paradise Song
……ボーカルは歌愛ユキ。
このアルバムでも、圧倒的な存在感を放つ曲です。
緊張を一切解くことなく、情け容赦なく展開してゆく曲。
歌詞の世界は、1stアルバム『パラドックスガール』の「スケルツォーネ」とつながっています。
この曲にも、作者による一言解説がなされています。
歌の主人公は、使い捨てられた機械人形でしょうか。
持ち主に捨てられてしまい、これから焼かれ、自分の存在も消えてしまう。
その恐怖を叫ぶ歌詞は、非常に直情的で、聴く者の心を真正面から突き刺す。
それでも、最後にぽろりとこぼれる、持ち主への「愛」。
このような末路を辿ることになっても、この気持ちだけは、どうしても忘れることが出来ない。
そうして救いのないまま曲は幕を閉じ、狂ってしまいそうなノイズだけが耳に残されるのです。
そしてこの曲は、このアルバムで唯一、「私」が何者なのか、歌詞の中ではっきりと示されている曲でもあります。
■Tr.9 Queueue bloomed in the underground Aug1844.
……ボーカルは初音ミク。
この曲では、これまでの曲とは比べものにならないくらい、ベースが雄弁に語っているのが特徴でしょうか。
Tr.8でバラバラになったリスナーの心をしっかりつかみ、引き止めて、アルバムの終幕へと導いて行きます。
Tr.8が「消え行くもの」の視点であったことに対し、この曲は「見送るもの」から綴られています。
Tr.8とTr.9が対になっているのかは分かりませんが、この2曲間の繋ぎはあっと息を飲む見事さでした。
■Tr.10 Lost in the Fog
……ボーカルは歌愛ユキ。
このアルバムのラストトラック。音数の少ないエレクトロニカ・バラードですが、実に荘厳な印象があります。
綺麗な世界だけども、なにか足りない。
心にぽっかり穴の開いたような、この曲からはそんな寂しさを感じ取ることが出来ます。
そして、アルバム1曲目『Umbrella』で降り続いていた雨は、アルバムラストのこの曲では、止んでいます。
……
………………総評。
1stアルバム『パラドックスガール』は、ニコニコ動画等でこれまで発表してきた曲をまとめたアルバムでした。
その収録曲の多くは、キャッチーなロックであったり、キャラの強く立ったエレクトロニカであったり。
今回の2nd『Umbrella』では、その半分が新曲であることもあり、最初から「アルバム」という統一された世界を意識して、制作されたような気がします。
その「統一感」からか、1stと比べて「サウンドトラック」のような、何かの劇伴音楽のような印象を抱きました。
「Tr.5 SEKAI」なんかはまさに、ゲームBGMと言われても何の疑問も抱かなかったと思います。
『forest』等、ゆにPがこれまで発表してきたインスト曲には、そのような雰囲気だったことが多いような気がします。
今回のアルバムでは、その傾向を更に強くしたことが伺えますね。
とは言っても「全曲が地味で記憶に残らない」なんてことは全くなくて、ひとつひとつの曲が確固たる世界を持っており、しっかり心に刻み込んでくることは、はっきり言っておかねばなりません。
僕個人からおすすめしたい曲は、特にTr.2「Invisible Cockpit」、Tr.4 「Zombiedog」、Tr.8 「Paradise Song」です。
そして、『Umbrella』に収録されたそれぞれの楽曲は、その世界観に共通したものを持っています。
例えば、このアルバムは、全体のテーマとして「別離」を掲げています。
離れてゆく側、見送る側。捨てられる側、捨てる側。突き落とされる側、行かせまいと、必死で呼びつづける側。
その叫びを曲に乗せ、二人の歌姫「初音ミク」「歌愛ユキ」が代弁し、並べ、パッケージングした作品、というものが、このアルバムを指し示す言葉なのかもしれません。
……ただ、ここまで書いたものは、あくまで僕個人の抱いた印象なので、ゆにPのきわめて抽象的な作風を一概に定義してしまうのはおすすめしません。聴いた人の数だけ抱く感想は存在するものですし、僕のこのダダ長い記事も、そのひとつにしか過ぎないのですから。
最後になりましたが、アルバムのジャケットについて。
今回も1stと同じくARiKEMさんが手がけた、きわめて抽象度の高いながらも、ミクの輪郭がわずかに垣間見えるイラストとなっています。
そしてこのジャケットは、パラパラと広げると1枚の絵となり、公式サイトの下の方みたいになるのです。
左の初音ミクがジャケット、中央の歌愛ユキが裏ジャケットとなっており、実に壮観な作品です。
でも、でも……!
実際のジャケットでは、ミクの絵の右下にアルバムタイトルが書かれているのですが、それなら折角ならユキサイドにも書いて欲しかったです!
そうすれば、「初音ミク」「歌愛ユキ」二人の歌姫の絵で、リバーシブルなジャケットになったのに!
このアルバムでは、「初音ミク」「歌愛ユキ」の2人には、同じくらい重要な役割が与えられていたので、そういった遊び心もあれば楽しかったのではないかな、というなんというかただのお節介ですすいません!!
ただ、このジャケットを広げた絵そのものを「Umbrella」と命名しているのであれば、上記のケチ(タイトルが一箇所にしか記載されていない)を蹴っ飛ばすだけの説得力はあるのかもしれませんね。
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