今年リリースされたVOCALOID/UTAUのアルバムから20枚を選び、レビューを書きました。

※対象アルバム・・・2013年冬コミ~2014/12/19までの間にリリースされた、あらゆる媒体のアルバム。
※順位に深い意味はありませんが、TOP5は真剣に考えました。


【2014年ベストアルバムの記事一覧】

Vol.1 VOCALOID/UTAU20選 ・・・ 2014/12/19(金)公開
Vol.2 同人音楽10選 ・・・ 2014/12/20(土)公開
Vol.3 サウンドトラック10選 ・・・ 2014/12/21(日)公開
Vol.4 ロック・ポップス6選+電子音楽6選 ・・・ 2014/12/23(火)公開
Vol.5 今年出会った旧譜10選 ・・・ 2014/12/24(水)公開

 


(20) 黒魔 / 想いで旅行記

リリース: 2014/08/17
通販: DIVERSE DIRECT

作者公式サイト「きゅうりキャンディ」


ほぼ全曲ピアノソロのフルアルバム。「旅行記」と銘打つには、旅人を主人公とした物語音楽だろうかと推測できるが、この作品では主人公も旅の目的も、果ては行き先すら何も提示しない。断片的な情景を、時には非常にアブストラクトなアンビエントっぽく、時にはポップに、滔々と語る。まるで夢の中を歩いているかのような生暖かい浮遊感は、前作「mousou new world」と通じるところがある。レム睡眠時の記憶を繋ぎ合わせたかのようなこの作品は、聴いた人の想像力を大いに刺激し、各々の旅路へと誘う。おそらく、このアルバムで旅立つのは他ならぬリスナー自身なのかもしれない。



(19) mus.hiba / White Girl

リリース: 2014/12/10
通販: レーベル公式通販


mus.hibaのアルバム「White Girl」は、少しビートミュージック寄りの手作り感あふれる骨太な電子音楽であり、美しさだけでなく潜在的な力強さをも匂わせてくる。この「手作り感」は、良質な多くのエレクトロニカに見られる要素だ。エフェクトにエフェクトを重ねた幻想的なエレクトロニカももちろん大好きなのだが、”手作り感”のあるエレクトロニカには、音数の少ないシンプルさと、ひとつひとつの音を演奏している姿が見えるかのような臨場感があり、あたかも自分がその音楽ととても近い距離に居て、さらには近しい知人であるかのように錯覚することが出来るのである。その錯覚に大きな役割を果たすのが、このアルバムのほぼ全曲の歌声であるUTAUライブラリ「雪歌ユフ」である。UTAUについての解説にまで踏み込むと話が逸れるのでニコニコ大百科辺りに譲るとして、その寒色の歌声はまさにこうした静かな電子音楽と相性抜群なのである。手作りエレクトロニカと一緒に歌う仮想の歌い手、このシチュエーションにこそ、リスナーを”そちら側の世界”へ誘うこれ以上ない条件が揃っているのだ。このアートワークにも、まさに絵本の中の少女のような現実離れした可憐さを感じてしまう。このアルバムの作者の絶妙な力加減が生み出す生々しさが、まるでひと繋がりの物語であるかのようにリスナーに何かを伝え続けてくるのだ。その語りかけに、今一度耳を傾けてみて欲しい。なお、このCDをレーベル公式通販で購入すると、アルバム未収録曲を5曲収録した特典CDが付いてくるのでおすすめである。



(18) 裸体のシルエット / E【e】

リリース: 2014/04/26
通販: とらのあな通販


ボーカロイドの歌うロックナンバーは数あれど、ボーカロイドを”正式メンバー”として迎え入れているロックバンドはなかなか無いのではなかろうか。作曲担当の「107」氏は元々ボカロPとして数々の曲や動画を公開していたのだが、どうやら最近バンドを組んだらしい、ほうではボーカルは人間なのかな、声質が曲に合ってればいいな、と思っていたらなんと「鏡音リン・レン」だったのでびっくり!一発ネタでも企画物でもなく、ただ普通に正式メンバーになっているのだ。今回紹介する「【E】」は4月発表の2ndである。正直、1stは色々と詰めが甘いところもあり消化不良だったのだが、2ndで化けた。ロックに合わせるには甲高い、という印象が鏡音リンの歌声に抱いているのだが、このバンドの鏡音リンは”らしさ”を失わない程度にドスの利いた芯の太い声をしているため、生演奏をバックにしていても埋もれず聴いていてしっくり来る。曲自体も、1stの浮き足立つ不安定さがなくなり、バンドに慣れてきたのか腰をどっしり構えた硬派な曲を披露している。ボカロの声が苦手という人にこそ、是非聴いてみていただきたい。ちなみに付け加えると、この後バンドには人間ボーカルが加入しDEMO CDを制作している。聴いてみたところこちらも悪くなかったので、アルバムリリースを待とうと思う。



(17) 鼻そうめんP(Hiroyuki Oda / HSP)/ HSP WORKS 11-14

リリース: 2014/08/17


ある時は世界を股に掛けるトラックメイカー、Hiroyuki Oda。またある時は飛ぶ鳥を落とす勢いのイラストレーターでありアニメーター、かんざきひろ。そんな”天は二物を与えた”を地で行く才人が、ボカロPとして活動する時の名義が「鼻そうめんP」というトンデモP名だということはご存知だろうか。由来はニコニコ大百科の記事を読めばわかるのでそちらに譲るとして、そんな鼻そうめんP(かっこよく略してHSP)が2年半ぶりにリリースするアルバムが今作だ。初音ミクの自作モデルによる3D映像で著名なTripshotsとのコラボ「gift nor art」(訳:才能でも芸術でもない)や、過去作「Plugout」「Unfragment」「Phantom」のセルフリミックス、お馴染みス◯夫リミックスや、14年発表の新曲「Scapescoat」「Desperate」等の計10曲を収録した、リアルタイムで追っていたリスナーには垂涎ものの1枚だ。しかし今作は、純粋な意味でのトランスアルバム色は薄い。これまでのアルバムにも「昭和84年」と称したタイムスリップ級のド直球80年代ディスコ・サウンドが入っており、今作でも8曲目「Stop Me」がその枠に相当する曲なのだが、2014年に入ってHSPはドラムンベースに傾倒しており、その路線が新曲「Scapescoat」「Desperate」に色濃く表れているのだ。(余談だが、1曲目「Plug Out (HSP 2012 Remix)」はダブステップの雰囲気に近づけており、やはり純粋なトランス以外の曲を作りたい衝動は前からあったのだろう。)長いキャリアを持つHSPなので当然曲の良さも音の作りこみも段違いなのだが、どうも自分はこの路線が好きになれない。推察するに、自分がHSPの曲に惚れた理由の一つが「極めて綺麗なシンセサウンド」だったのだが、ムンベな曲ではブワブワ唸るベースがメインとなりとても荒削りな印象を抱く。そのサウンドをHSPの曲として聴こうとすると、どうしても抵抗を感じてしまうのだ。HSPなら得意の綺麗なサウンドでムンベを作れるはずなので、一度そういう風に作ってくれないかとひそかに期待しているのだが・・・。この通り、アルバムの曲の半分近くが期待から逸れてしまった今回のアルバムだが、それでも他の「Gift Nor Art」「Phantom」そして「Scapescoat」のセルフリミックスが本当に良かったため、今年のベストアルバムに入れることとした。決して贔屓目ではないと自分では信じている。そして悲しいことに、今回も通販・配信ともに行われていない。ス◯夫か、ス◯夫のせいなのか。



(16) 喜兵衛 / Paper Moon

リリース: 2014/08/17


ボーカロイドを用いたジャズコンピシリーズ「VOCAJAZZ」を企画・主催したりジャズバンドで度々ライブをしたりと「ジャズの人」の印象が強いボカロP・喜兵衛。これまでに2枚のオリジナルCDをひっそりとリリースしているのだが、通して聴いてみるとジャズに留まらない様々な顔を知ることが出来る。今年夏に出したこの「Paper Moon」は全7曲で構成されており、1曲目「Paper Moon」はいろんな音楽の聞こえる街角のようなコンセプトのインスト曲、2曲目「ユメノ」はピアノメインのJ-POPテイストなバンドポップスで、コンサートでサイリウムを振りたくなるような明るいアップテンポな曲。冬に聴きたくなる暖かさも感じる。3曲目「お腹いっぱいの幸せを」は喜兵衛の本領発揮となるHAPPY JAZZ!!タイトルだけでお腹いっぱいと言わずに、ビッグバンド路線の賑やかな音楽で家庭的な暖かさを噛み締めて欲しい。これも冬に聴いたら染みるだろうなあ。4曲目「コンセント」は一転、しんみりしたクールなサウンドが心地よい。リズムを作っているのがドラムかと思いきやピアノだったのには驚愕。もう少しボーカルを引っ込めた方が雰囲気が出たかもしれない。5曲目「flow」は42秒の小曲。シンセとコーラスが雰囲気を作る方向転換の立ち位置の曲だが、なかなかどうして印象に残る。6曲目「浮月」は、ピアノ・ドラム・ベースが土台だがジャズというよりはポップスのバラードに近く、ストリングスが黒子的な意味でいい仕事をしている。その6曲目がかなりいいところで終わると、間を置かず最後の7曲目「ジュズダマ」に入る。エレキギターが唸り、これまでで最もロック色が強い曲だ。喜兵衛のロックは疾走感と渋さがいい具合にブレンドされていて、クサすぎない程度の洒落っ気がありとてもかっこいいのだ。喜兵衛の音楽には、高いレベルにある技術や作曲センスだけでなく、ある程度の人生を重ねた人間が抱く願いや希望が強く込められている。願わくば、このアルバムが会場限定と言わず、BandcampやSoundcloud等で広く配信されんことを。



(15) ファミリーマート×VOCALOID公式コンピレーション「acoustic beatlog feat.初音ミク」

リリース: 2014/04/20
収録曲を聴く


ファミリーマートとVOCALOIDの公式コラボキャンペーンの一環でリリースされたミニコンピレーション。この手の企画にはほとんど応募したことがなかったので、手続き等でいろいろと手間取ったのも今やいい思い出に。コンセプトは「春」「VOCALOID」「生演奏」らしい。参加者はGYARI/whoo/手タレP/ATOLS/西島尊大の5人なのだが、ここに手タレPがいるという時点で企画者はアルバムコンセプトとボカロPについてよく理解しているなと少し見る目が変わるのである。アルバム名に「アコースティック」とあるが、完全なアンプラグド縛りではなくあくまで「生演奏を含む曲」ということになっている。1曲目のGYARI「CIGARETTE★STAGE」は最も得意とするところのスタンダード・ジャズ、2曲目のwhoo「トイパレードは終わらない」はwhooの十八番とも呼ぶべきソフトかつ疾走感のあるポストロック。そして真打ちの3曲目、手タレPのよる「輝く世界のジンガ」は、歌以外は全てパーカッションという野生っぷりだ。4曲目のATOLS「モネの宇宙」はちょっと変化球で、歌のバックは自身のヒューマンビートボックスと流れるようなシンセサウンドという構成。元来、VOCALOIDを使用する前はヒューマンビートボックスでCDを出していた人なので、最初は驚いたもののすぐに腑に落ちた。ラストの5曲目は西島尊大「der Ursprung」。このドイツ語を直訳すると「起源」「根源」となる。ボーカルの他にはピアノと管楽器(フルート+クラリネット)のクラシックを意識した編成だ。歌には歌詞がなくハミングのみ、曲構成もひねりがなくとてもシンプルなため、クラシカルと言っても取っ付き易い曲になっていると思う。このコンピは一応値段のついた商品なのだが、企画物であるため商業流通とも言い切れず、また当然同人流通でもない。そのためか、商業・同人いずれにもない独特の雰囲気をしたアルバムになっており、興味を抱いた。今年はファミリーマートの他にもジョージアコーヒーとのコラボアルバムも存在しており(こちらはMP3+アートワークを無料配布なので太っ腹である)、こちらもとても良いアルバムだったため、音楽を世に出す形としてこういった”分かってる人が企画する”ブランドコラボは十分ありだな、という印象を持ったのである。ただ、「企画もの」ゆえ入手できる手段も期間も限定されており、今から新たに聴くための手段が用意されていないのが残念だが。



(14) whoo / ALL THINGS MUST PASS

リリース: 2014/08/17
通販: Amazon.co.jp


既存のリスナー、それも1stアルバムを出す前から知っていた初期のリスナーにとって、そのミュージシャンが出すベストアルバムの良さを語ることは難しい。ベストアルバムとは文字通り「いいとこ取り」であり、比較的最近知ったリスナーに向けて出すことを想定したものだからだ。初期からのリスナーは、1曲ずつにリアルタイムで触れた歴史を刻んでおり、オリジナルアルバムの曲順でまた記憶していたりもする。ベストアルバムを聴くということは、過ごした時間を一旦解体して再び向き合うことを意味し、どうしても複雑な、遠回りな姿勢で鑑賞してしまいがちになる。whooという作家の曲調は、ふんわりしたポストロックに叙情性をトッピングした、まるで洋菓子のような甘さをしている。このベストアルバムはCD2枚組となっており、1枚目は活動期の前半(2009~2010年頃)、2枚目は後半(2011~2014年)とざっくり分けられている。そして、新曲でありこのアルバムのタイトルを冠した「ALL THINGS MUST PASS」は、ギター片手に散歩しながら歌っているような、ゆっくりだが前向きなスローナンバーなのだが、なんと1枚目のラストに収録されている。直訳すれば「あらゆるものは過ぎ去りゆくものだ」、ざっくり訳せば「諸行無常」といったところか。過去にとらわれない、過去との決別を込めたタイトルの曲を、過去曲ばかりのディスクに入れた理由は本人だけが知るところだが、自分の作品への愛着を一度も感じたことがないわけではないのならば、この曲をこのタイトルにして、この位置に入れた事には相当の覚悟が必要だったと思わずにはいられない。whooの初期の楽曲やアルバムを愛する身としては、それが過去を捨てるという決意ではないことを切に願うものである。なお、このアルバムには過去のアルバムに未収録の楽曲が5曲入っている。また、個人的に曲順で面白いと感じた点は、1stアルバム「音のない部屋の中で」(名盤!)の中でアルバム展開の鍵を握るインスト曲「ROOMS」が、1枚目のトップバッターとなっていることである。曲自体もとてもよいので、whooを知らない人も知ってる人も、あるいは知ってるつもりの人もその扉を開けて見て欲しい。



(13) EZFG / サイバーサンダーサイダー

リリース: 2014/04/23
通販:Amazon.co.jp


「サイバーサンダーサイダー」という曲を知っている人は少なくないと思う。早口で畳み掛ける大量の歌詞が映画のクレジットよろしくスクロールし、棒人間が謎の踊りを踊るあの映像は、公開された当時強烈に印象に残った。その曲の作者はEZFG、歌っているVOCALOIDはVY1であり、そしてその作者の渾身のフルアルバムが今年リリースされた。VY1は女声ボーカロイドなのだが、他の数多のボイスとは異なり特定のキャラクターイラストがあえて排除されている、本当の意味で声だけの存在だ。なので、他のボーカロイドと同じ文脈で比較するとどうしても影に隠れがちなのだが、その安定した性能には理想のボーカロイド像を見ずにはいられない。そもそもボーカロイドは声のソフトウェアなのだし、当然といえば当然なのだが。このアルバムは全曲が「サイバーサンダーサイダー」という曲と同じ方向性を向いていながら、メロディも曲調も被ることなく起伏の富んだ1枚のアルバムとして聴かせられていることに、EZFGという作家の持つ技量をこれでもかというほど見せつけられる。これだけ情報量の多い歌詞と歌声を曲としてきっちりまとめるということがいかに凄いかは、実際に聴いていただければ分かると思う。そして個人的に恐れ入った点は、アルバムジャケットが例の棒人間オンリーであることだ。普段動画でキャラクターイラストを使わない作家でも、商業アルバムとなるとイラストレーターによる綺麗なジャケットがあしらわれるものだが(あのジミーサムPですらそうだった)、EZFGという作家は「棒人間の人」としてのアイデンティティを堅持した。ここまで来るともう職人芸だ。脱帽である。



(12) Stripeless Records / MIKUHOP LP

リリース: 2014/08/31
ダウンロード: Bandcamp


エレクトロニカやシューゲイザー等、VOCALOIDを用いたジャンル別コンピレーションはこれまでもリリースされてきたが、今年はついに「ヒップホップ」のコンピレーションが出た。実は2011年の時点でブラックミュージックのコンピレーション「GOOD 2 GO!!」が世に出ているのだが、今作は特にヒップホップを強く押し出しており、その真髄へさらに深く鋭く切り込んでいる。2曲目「瓦礫の塔のキメラ(by Oven Toast Jam)」は、VOICEROID「月読アイ」を用いたドープなトラックがいきなり待ち構えている。VOICEROIDとはVOCALOIDの仲間の朗読ソフトであり、月読アイとは幼稚園児の女の子の声のライブラリである。つまり、幼女の声で先鋭的なヒップホップをやっているのである。この曲に象徴されるような頭のネジのぶっ飛び具合こそが、VOCALOIDならではの非常に尖った楽しみ方だといえよう。他にも仮想の歌い手としてのVOCALOIDを使い倒したトラックから、人間の声を意識した堅実なトラックまで、多種多様の作曲家が自らの思い描く「ヒップホップ」を詰め込んだのがこのアルバムだ。曲調も非常に多岐にわたっているため、すべての曲が好きになるという人は正直それほど多くないだろう。しかし、一生モノと言えるほど気に入る曲が1つでも見つかる可能性は十分にある。雰囲気抜群のアートワークと併せ、非常にファッショナブルなアイテムとなったと断言できる。ちなみにアートワーク内でミクが手にしているレコードのジャケットは、先行配信された「MIKUHOP EP」のそれだ。粋な演出である。最後になったが、この企画を主宰した「しま」氏は元来何の変哲もないリスナーだったのだが、自らの好むヒップホップとボーカロイドの融合に可能性を感じ、一念発起して自ら企画を立て、自らレーベル「Stripeless Records」を興してこのアルバムをリリースしたという経緯がある。しま氏の行動力には、ただ敬意あるのみである。なお、このアルバムはBandcampにてFree Downloadとなっている。なんともったいない!ライナーノーツもDropbox経由でダウンロードできるぞ(特設サイト参照)。



(11) FMAK (曼荼羅P) / selbstmord

リリース: 2014/04/26
通販:個人通販


曼荼羅PことFumiaki Kiokaの楽曲ジャンルをあえて表現するなら、重々しいギターと激しいドラムが特徴のエモ・ロックと、ピアノ等の静かな楽器のみをバックに滔々と歌うバラードの2つに大別されるだろう。一貫して鏡音リンのみを使用した、淡々としながらも語る力を持つ歌声はとても綺麗に響く。そしてほぼすべての曲が物悲しく、そして抽象性の高い物語を持っている。そこにはフォーク・ミュージックの香りを確かに感じ取ることが出来るのだ。ピノキオピーは、フォークは歌詞を伝えてこそであり、かつてはギター1本のみのシンプルな曲が多かったのだと言った。しかし音楽というものが動画サイトで聴くようになってからは、特にVOCALOIDの音楽は歌詞を強調しているため、必ずしもシンプルな音でなくとも歌詞を伝えられるようになったとも言っていた。曼荼羅Pの曲は、激しい曲も静かな曲も動画はほぼすべて「歌詞のみ」のシンプルなもので、訴えるメッセージの全てを音と詞のみに託している。まさにインターネット・フォークミュージックと呼称することが出来るだろう。そんな曼荼羅Pの「エモいフォーク」が堪能できる最新アルバムがこの「selbstmord」である。・・・と、綺麗に〆たいところだが、今回は普段とは違う作風の曲もいくつかあった。本人いわく「冒険してみた」とのことだが、確かにこれまでよりパンク色の強い”攻め”の曲がいくつかあるかもしれない。5曲目「ああ、もうどうでもいいや」は、荒削りなアレンジに曼荼羅P得意の感傷的なメロディが思いの外マッチしており好みだ。また、8曲目「108 hot waves no limit」はいかにも”ライブで盛り上がるための曲”という終始アゲアゲな雰囲気であり大変珍しい。観客の歓声もサンプリングされていたりと本気で意識しているのだろう、このノリは決して悪くない。しかし問題は7曲目「空澱粉」である。作詞は曼荼羅Pではなく、あのヒッキーPである。言い換えれば大高丈宙である。もうこの時点である種の”諦め”が付いた人もいるだろう。実際中身は身も蓋もない。あまり好きな曲ではないが、好きじゃない理由は歌詞よりもむしろ曼荼羅Pの曲にある。曲調が「ヒッキーP」という個性をあまりに意識しすぎており、ヒッキーPの曲をそれなりに聴いている身からすると新鮮味がない。ここはいっそ曲も曼荼羅節全開にして”対決色”を強めに出していれば面白いことになっていたと思う。アルバム終盤の9曲目「wail」以降は、比較的落ち着いた作風がようやく顔を出す。この非常にパワフルで劇薬のようなアルバムをじっくりと〆てくれる。何度も繰り返し聴いて世界観に浸るタイプのアルバムではないが、個人的には結構好きなアルバムだ。



(10) U/M/A/A / MIKU-MIXTURE feat.初音ミク

リリース: 2014/02/19
通販: Amazon.co.jp
収録曲を聴く


VOCALOIDコンピレーションが星の数ほど出るようになった昨今、面白いコンセプトのものも続々とリリースされるようになった。そのひとつが、U/M/A/Aから出た「ボカロP同士の合作コンピ」こと「MIKU-MIXTURE」である。テーマはまさに合作。比較的作風の近い組み合わせもあれば、どう考えても事故が起きそうな組み合わせもあったりと、トラックリストを見るだけでも楽しくなってくる。そしてこのコンピ、あまりに綺麗にハマりすぎて合作という感じがしない、という極めて高度なレベルの曲は無かったので、2人の個性ある作曲家がそれぞれの得意分野を持ち寄った「寄せ鍋感」が全編にわたって漂っており、各人の作風を知っている身としてはニヤニヤが止まらないのだ。「ボカロPの名前なんていちいち覚えてない」「このPの名前は知ってるけど曲はよく知らない」という人でも、普段混ざらないものが混ざっているお祭り感覚で大いに楽しめるものと思われる。曲自体も合作という要素抜きで佳作揃いだ。1曲目を飾る、Lemm×西島尊大「Waltz of Knives」は特に好きな曲のひとつだが、2人は後に(というかすぐに)正式にユニットを組み、GINGAよりアルバムまでリリースするという相思相愛ぶり。基本的にきれいな曲が多めであるため、7曲目のピノキオピー×鬱P「ゴージャスビッグ対談」の爆弾ぶりが際立っている。事故どころか惨事と言ってもいいほどの出来栄えだが(褒めている)、同じくこのアルバムで特に好きな曲の一つでありオススメ。他に好きな曲は、5曲目の椎名もた×宮沢もよよ「walk」、sasakure.UK×OSTER project「セイヴザプリンセス」、11曲目のくらげP×takamatt「ブレイクダウン」。



(9) Monochromia (Lemm×西島尊大) / Monograph

リリース: 2014/06/25
通販: Amazon.co.jp


Lemmと西島尊大の2人の作曲家によるユニット「Monochromia」が、GINGAよりリリースした初のアルバムがこの「Monograph」だ。元々は別の企画で「Waltz of Knives」という曲を2人で合作したのだが、正式にユニットを組んでフルアルバムまで作ったというわけだ。その間実に4ヶ月。このスピード感は半端じゃない。2人ともソロでの活動歴がそこそこあり、それなりに近いジャンルにいると思っていたが、いざ合作アルバムを聴いてみると2人の持ち味の違いが見えてくる。といってもそこまで厳密に役割分担をしているわけではないが、情緒あふれる部分はLemm、技巧で魅せる部分は西島尊大の強みが活かされているような印象を受けた。これはちょうど筆者が2人の曲に抱いているイメージとも一致しており、大変気持ちよく聴けるアルバムとなっている。だがやはり2人とも普段非常に真面目な曲を作っているからか、アルバムは序盤から硬派な「美」を主張している。2曲目「Focus」や5曲目「Orthos」などはまさに形から固めたタイプのきっちりした曲であり、聴いてて思わず背筋が伸びるが、途中の7曲目「Accel」はこれまでの流れを一蹴するかのようなポップナンバーとなっており、歌詞もわざとらしいほど売れ線を狙った芸風でゲラゲラ笑いながら聴いていた。こういうガス抜きがなければとにかく硬いアルバムとなっていただろうが、この遊び方もどこか空々しく、やはり2人とも根は真面目なのだなという印象を新たにする(失礼)。知る人にとってはかなり贅沢なこのアルバムだが、残念ながら知名度はあまり高いとはいえない。筆者だけで楽しむのも寂しいので、この記事を読んだ方が一人でもこのアルバムに関心を示してくれれば幸いである。



(8) 鬱P / ALGORITHM

リリース: 2014/09/10
通販: TOWER RECORDS ONLINE / とらのあな通販


ボーカロイドでハードロックやデスメタルを演るボカロPも増えてきたが、技術だけでなく作詞・作曲のセンスまで含めた場合、その草分けの一人であり顔役とも言える鬱Pの右に出るものは今でも現れていないのではなかろうか。そんな鬱Pが今年の夏にリリースした最新アルバムが、同人では4枚目、商業流通も含めたら5枚目となる「ALGORITHM(アルゴリズム)」だ。まずタイトルに着目していただきたい。普通、音楽にタイトルを付ける際「◯◯リズム」という語感になったら、多くのミュージシャンは「RHYTHM」の綴りを無理やりねじ込んで造語を作りたくなるものだろう。このようにしてJ-POPでありがちなダサい日本語英語が出来上がるわけだが、鬱PにとってそんなものはOUT OF SIGHTである。もうこれだけで「あ、こいつはまともだな」と思わせられるのだ。小さな要素だが、ビジュアルを含めた第一印象に影響するので案外重要だと思う。そして次に注目していただきたいのは、このアルバムの宣伝動画だ。音楽アルバムに限らず、自身の作品を発表する際のジレンマとして「作品について作者自ら語るのはダサい」「しかし少しの注釈を加える事でより深く鑑賞してもらうきっかけになる」との間の論争がある。ボカロ関連のクリエイター間でも時々話題になっているのを見かけるが、鬱Pはその辺りを完全に割り切って「いっそプレゼンしよう」と思い至ってしまった。その結果投稿されたのが↓の動画である。もう笑わずにはいられない。しかも結構上手い。過去曲については、その曲にまつわるマル秘エピソードなんかも盛り込んだりして、そこそこ長い動画なのだがあっという間に観終えてしまった。当然だが、事前情報なしで鑑賞したい場合は動画の視聴はおすすめしかねる。



ああ、曲に関する記述が後回しになってしまった。アルバムの鍵となるべき2曲目「ベイビー・デスマッチ」が再生時間わずか1分しかなかったり、4曲目「絶対音楽で踊れ」がEDMを、6曲目「モンキーダンスの洗脳術」がダブステップをそれぞれ取り込んだ実験的な曲調だったりと、鬱Pの音楽に対する好奇心と挑戦心は5枚目にして全く衰えていない、むしろ激化しており痛快だ。これほど好き勝手やっておいてハードロック・デスメタルの土台からぶれていないのも凄い。ジャケットイラストはお馴染み飯時氏の作品。こんなに味のある凶悪面をしたボーカロイドは氏にしか描けないだろう。ちなみに、鬱Pがアルバムを出すごとに描かれるボカロキャラは増えているのだが(商業流通覗く)、最も新参のv flowerに関しては後ろ姿がほぼ髪の毛しか映っておらず、思わず「妖怪か!」と叫びたくなった。ごめんなさい。なお、買う時の注意点だが、現在Amazonでは完売しており中古品が高騰しているため、タワレコ通販(送料無料)やとらのあな通販(在庫僅少)等をおすすめする。



(7) カラスヤサボウ / goodnight, wonderend

リリース: 2014/03/19
通販: Amazon.co.jp


商業流通では初となるカラスヤサボウのアルバム。着目すべきは、ボーカル曲はすべて鏡音リン歌唱だが、氏の既存の人気曲がひとつもなく、すべての収録曲がこのアルバムのために新規に制作されている点だ。ニコニコ動画での人気とは全く異なる文脈で作られており、しかも全体コンセプトを前面に押し出した非常にアーティスティックなアルバムとなっている。アルバムのオープニングとエンディングは、いずれも静かな演奏をバックにした朗読。オープニング「夜が降りてくるころに」では、人間の朗読が徐々にフェードアウトして鏡音リンの声になる。エンディング「夜が明けてゆくころに」はその逆だ。曲のタイトルを見てみると、アルバム前半は2曲目「ちらかったへや」や3曲目「ある逃避の」、6曲目「救いようのない」のように、現実逃避の色合いが濃い。一方アルバム後半については、9曲目「きらきらひかる」や10曲目「世界で一番きれいな朝に」のように、前向きな言葉が見受けられ、ひとつのストーリーが紡がれているように見えてくる。まるで連作短編小説の目次を読んでいるかのような、味わいのあるトラックリストである。歌詞カードは1枚毎にイラストのついたバラのカード状となっており、また紙の手触りも良いため本当に良質な本を手に取っているかのようなパッケージになっている。曲はゆったりとしたロックバラードが中心で、アップテンポの曲は少なめ。時折ギターが泣いて曲を盛り上げる。12曲すべてにイラストがあるとはいえ、物語自体を説明することはないアブストラクトな描写となっており、実際にどのような物語が語られているかはリスナーの想像力に委ねられる。聴き終えた後は、良い小説を読み終えた後のような感傷に浸ることの出来る、物語音楽に求める最たるものを得られる至高の作品である。



(6) ZANIO / TWO WORLDS

リリース: 2014/02/26
通販: Amazon.co.jp


ペヤング回収騒動を機に特に再評価される兆しもない「ペヤングだばぁ」の作者・ざにおのデビューアルバム。ネタ曲が色んな意味で有名な人だが、このアルバムには件の「だばぁ」しか入っていない。名曲「Showered」「Distance」や「ジェミニ」の名カバーなど、静かで美しいハウス風味のポップスで満ちている。また、全10曲のうちインスト曲が4曲収録されていることも特筆すべきだろう。初音ミクという要素を前面に出したパッケージではあるものの(かんざきひろによるジャケットイラストは本当に魅力的だ)、このアルバムは「ZANIOの音楽を愛する者のためのアルバム」として制作されたものである。そして、もしZANIOの曲をネタ曲しか知らないのであれば、是非このアルバムを手に取り、その息を呑むような音楽に触れてみて欲しい。なお、唯一のネタ枠であるところの「ペヤングだばぁ」についても、ボーカルが初音ミクAppendに差し替えられ、悲壮感が一層増していることを付記しておく。



(5) ELECTROCUTICA / AW2013 – CRYOHYDRATE

リリース: 2013/12/31
通販: Amazon.co.jp / とらのあな
配信: iTunes Store (from KarenT)


Treow擁するELECTROCUTICAのミニアルバム。タイトルの前にいろんな記号が付いているのは「実験作品」「試験的なやつ」みたいな意味合いがあるそうだ。2014年夏にも似たような立ち位置の「SS2014 Transience」というCDを出している。1曲目「Intersection」はこれまでのTreow楽曲としてはかなりコミカルな音を出しており、いきなり度肝を抜かされる。にじみ出る非現実的な浮遊感。躁鬱というワードが脳裏をよぎった。続く2曲目「Khronotris」はイントロは少し硬派と思いきや、8bitを軸に鳴り響く不思議なコードが不穏な空気を醸し出す疾走感あふれるドラムンベースだ。何を言ってるか分からないと思うが、筆者にも一体どこからどうやってどういう展開になったのか全く理解が及ばない。しかし曲としてはまとまっており、さしずめ整頓された混沌といったところか。わずか3分半の曲だが、全く知らない音楽の文法を覗き見たような空恐ろしさすら感じる曲だ。これは夢か。3曲目「Constamination」はかなり暗い曲だが、2曲目の衝撃を引きずりながら聴くと何かが腑に落ちるような感覚を覚える。これはきっとさっきの夢の続きだ。4曲目「Decayed Garden」は7分半の長尺。アルバム前半の混沌をここで一旦整理し、じっくりと麻痺した感覚を整え直す。後半のTreow節全開の構成に安堵すら覚える。5曲目「Promenade」は横揺れの四つ打ち。どこか聞き覚えのある声がする。楽しそうにハミングをしている。6曲目「(for you!)」は1曲目のリプライズ。"あの人"のスキャット付きなので大分かわいい印象になっている。そして真打ちの7曲目「氷晶」。これまでの曲はすべてこの1曲に向けて収束していく。そして唯一まともな歌詞があるボーカル曲でもある。ピアノ+カリカリチリチリのガラス球シンセの心地よさ、特にガラス球の音があまりに綺麗で冗談抜きで失神しそうになった。これは本当にすごい曲だ、だからこそ6曲もの「前置き」を置いたのだ、と言われても納得してしまいそうだ。サークル側は、このCDを「シングル」だと表現した。1~6曲目にもとんでもない曲がたくさんあったが、この「氷晶」を聴いてしまったあとでは確かにこれはシングルだと思わず頷いてしまうだろう。なんて贅沢なマキシシングルだ。



(4) おみこし -Pinocchiop Tribute Album-

リリース: 2014/04/26
通販: Amazon.co.jp / とらのあな通販


唐突だが、トリビュート・アルバムとは何だろう。一般的には、ある特定の作家へのリスペクトを込め、その作品のアレンジを持ち寄ったアルバムと言えるだろう。では「良いトリビュート・アルバム」とは何だろう。何をもって良さとするかは聴く人次第だが、やはりアルバム全体のアレンジの出来が良ければ良いほど評価は高まるだろう。だが、ここで紹介する「ピノキオピー」へのトリビュート・アルバムは、それ以外にもアルバムへの評価を押し上げる素敵な要素が含まれている。それは「お祭り感覚」と「信頼」だ。数年来のボカロP仲間であるシメサバツイスターズが提唱したこの企画は、両氏の属する同人サークル「ガスコンロ」の仲間はほぼ全員参加しており、他にも親交のあるPがぞろぞろ集まった結果、15曲70分のモンスターアルバムが出来上がった。参加者の音楽ジャンルも実に様々だが、数多のボカロコンピに見られるような「寄せ集め」の匂いはない。全曲同じ作者だからということもあるだろうが、通して聴いていると参加者全員がこの企画を楽しんでいることが伝わってくるのだ。もちろんそこには、ピノキオピーという作家への溢れんばかりの敬意が込められている。しかし同時にお祭り騒ぎも起きている。「おみこし」というアルバムタイトルはまさにこの作品の性格を正確に表現していたのだ(ギャグじゃないよ)。しかし、こうした企画をお祭り感覚で進めるためには、おみこしされる当の本人側からのアクションも欠かせない。ピノキオピーから仲間への信頼と、仲間からピノキオピーに向けての信頼がガチっと噛み合ってこそ、お互いに何の気兼ねもなく楽しめるのだ。この信頼関係がなければ、ここまで質の高いアルバムにはなっていなかったと思う。トリビュート・アルバムとしては理想の形になっていると断言できる。・・・でも今はもう完売してて正規に入手する手段はないのが残念。本当に素晴らしいアルバムだけにもったいない。



(3) ばぶちゃん / おわりのはじまり

リリース: 2014/11/15
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ノイズ・アンビエントのアルバム。この作品は、ほぼ全編がノイズで満ちている。初音ミクが歌うボーカルトラックも、定まった形を持たないインスト曲も、例外なく耳をつんざくノイズに覆われている。時折挟まれる子守唄のようなメロディに心安らぐのも束の間、次の瞬間にはノイズのヴェールに包まれ、ノイズの奔流に埋もれてゆく。しかし、これはただ五月蝿いだけのアルバムではない。このノイズが実に美しいのだ。美しいノイズに揺蕩うからこそ、メロディも美しくなる、詞に込めたメッセージも伝わってくる。それがばぶちゃんという謎多き作家の作風なのだ。ノイズが郷愁を掻き立て、郷愁がノイズを呼び起こす。その連鎖のインフレーションが猛烈な勢いで高まり、最後の曲「せかいのおわりのさいしょのうた」で破裂し、収束する。この”赤ん坊”が見てきた世界のすべてが、このアルバムに詰め込まれている。集大成と言ってもいいだろう。あなたもぜひ、この”究極の美”に触れてみて欲しい。なお、これは既にばぶちゃんの曲を知っている人に向けての情報だが、自分の耳がおかしいのでなければ、ニコ動やSoundcloudにアップされている音源よりもノイズ成分がかなり積み増しされているような気がする。曲は知っているけど特に購入予定のなかった人も、その辺に期待しつつ、CDを手に取ってみてはいかがだろうか。



(2) 翁 / 発見集

リリース: 2014/04/27
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思うに、素晴らしいロック・ミュージックには2つの種類がある。ひとつは、その素晴らしさを何としてでも言葉で伝えたくて必死になるもの。もうひとつは、その素晴らしさを表す言葉が一切浮かんでこないものだ。翁というボカロPの1stアルバム「発見集」は、後者に当たる。その作風は、極限までヘヴィにしたギターリフと、個性という枠を軽くぶち壊したドラミング、そして複雑な曲構成。そこにデフォルトミクの高い歌声が刺さる様は、今や一ジャンルとなったVOCAROCKの中でも異彩を放つ。4曲目「果てへ」と10曲目「歯車さん」は、その特徴が顕著に現れた傑作だと思う。このように、曲の技術面での特徴を言葉にするのは簡単だ。ではなぜそれが、他のロックを差し置いて心を打つのか。その理由は喉の奥まで出かかっているのだが、言葉にしようとすると雲散霧消してしまうのである。うまく説明できない、けど間違いなく他のロックとは一線を画している。ややこしいだけのロックなら巷にあふれている、しかし翁の音楽は次元が違う。こんな抽象的なことしか書けなくなってしまう、しかしこんな文章をレビューと言い張って書いてしまうのもおこがましい、しかしそれでもこのアルバムを少しでも多くの人に聴いて欲しい。そして、このアルバムの感想を、レビューを読んでみたい。自分以外のリスナーがこのロックミュージックに感じたことを、どうやって言葉にするのかを知りたい。音楽だけでなく、その音楽を受けてはじき出された言葉をも鑑賞したい。言い換えるなら、音楽に留まらず、音楽が生み出す周りの空気と、その空気を吸っているであろう周囲の有象無象をも好きになれそうな、そんな気になってしまったのかもしれない。



(1) chiepomme / Couverture

リリース: 2014/08/17


「音の魔術師」という呼び名が最もふさわしい作家、chiepomme(ちえP)の2枚組ベストアルバム。愛するあまり今や一心同体化していそうなUTAU「櫻歌ミコ」をフィーチャーした曲が大部分だが、他のUTAUやVOCALOIDを含めるとなんと20人ものボーカルがいる大所帯アルバムだ。そして、とても一人で作ったとは思えないほどジャンルが多種多様なアルバムでもある。ちえP時代からの真骨頂である遊園地系カラフルポップスは無論、3曲目「りんご King of the Fruit」ではなんとヒップホップが現れる。ミコさんもラップでりんごがいかに素晴らしい果物であるかを力説するという自由すぎるトラックだ。他にも、4曲目「Summer Driver」はテクノポップ路線、6曲目「トコニレの森から」は民族調香るバラード、20曲目「煙に巻けッ!」と24曲目「櫻唄」はあの名曲「月花ノ姫歌」を彷彿とさせる疾走感ある和風ポップスだ。昨年冬にリリースしたロックなEP「chienoir」からは、15曲目「ありがとう」16曲目「自己愛肯定感」等、EPの5曲全てが収録されるというプッシュぶりだ。そしてこのアルバムのクライマックスにしてラストを飾るのは、26曲目「私の中の私」だ。13分もの大作には、童話のようなメルヘンチックなストーリーが綴られている。櫻歌ミコには、「第二形態」という声色の違うライブラリが存在しており、ちえPはその設定を活用して「自分の精神世界にいるもうひとりの自分と出会う」ストーリーを編み出している。そしてこの曲が凄いのはもちろんストーリーだけではない。ストーリー展開に合わせて音楽も緩急めまぐるしく移り変わり、わずか13分でひとつのミュージカルを完成させてしまっているのだ。極めて体感時間の短い13分、ちえPが自らの持つ全てを注ぎ込むほど、櫻歌ミコへの愛情が深い事をこの曲でまざまざと見せつけられるのだ。ちえPが過去にリリースした同人CDの総まとめのようなこのアルバム、とてもではないが「濃い」というレベルを遥かに超えている。「今年一番よかったアルバム」はこのアルバムを含め数作の候補が上がり悩ましいが、「今年一番すごかったアルバム」はこのアルバム以外の選択肢が自然と消えていってしまった。サービス精神という言葉も泡を食って逃げ出すこの豪華絢爛なパッケージは、信じられないことに通販も配信も行われていない。筆者が全力で気に入ったアルバムほど通販されておらず他人におすすめしづらいのどうして?(血涙)