C87で買ったCDのレビュー、6本目は高野大夢作曲の「de -The interpreted fragments of ghostpia-」。

高野大夢は、同人小説サークル「超水道」がアプリの形で無償公開している小説「ghostpia」のBGMを手がけています。ghostpiaといえば、先日「無償公開を続けるためのクラウドファウンディング」を募った結果、わずか44時間で達成したことが記憶に新しいですね。ちなみにこのプロジェクト、達成後はストレッチゴールを設けて、最初に設定された期限である2015/01/17まで続けられています。そのBGMを作曲者自ら解体・再構築し、ノイズ・アンビエントに仕立て上げたremix、ならぬdemixアルバム(本人談)が当作品です。

サウンドトラックのリミックス盤、それも作曲者本人によるものとのことでサントラ好きの血が騒ぎ、ほぼ事前情報なしで衝動的に買ったところ大変好みの音楽だった、という筆者にとっては非常に幸せな出会い方が出来たアルバムです。

【2015/01/17追記:クラウドファウンディングは最終的に目標の倍額を達成、すべてのストレッチゴールをコンプリートしたようです。おめでとうございます!結果報告のリンクはこちら



高野大夢 / de -The interpreted fragments of ghostpia-

リリース: 2014/12/30
ジャンル: ノイズ・アンビエント
販売: 超水道のBOOTH


全曲インストゥルメンタル、ノイズ・アンビエントを7曲収録したミニアルバム。先述の通り、その全ての曲がノベルアプリ「ghostpia」の劇伴音楽を素材として再構築されたものとなる。「remixではなくdemix」と作者が述べていたとおり、このアルバムは原曲のアレンジを目的としたものではなく、原曲を跡形もなく破壊した上で、その破片を拾い集めたものとなっているのだ。その破片の大きさはまちまちであるため、所々にサントラの元曲の叙情性を残したトラックもあれば、元の姿を望むべくもないほど粉砕されたトラックもある。しかし総じて言えることは、どのトラックも美しく洗練された、非常に繊細なサウンドだということである。

このアルバムのサウンドは、全体を通して叙情性と音響性の間のバランスが絶妙な具合に保たれている。全7曲を総合して見てみるとかなりノイズ寄りなのだが、破壊された原曲の残されたわずかな叙情性が、各トラックをミニマル路線にしすぎないよう調節しているかのように聞こえる。100%破壊し尽くさず、わずかでも原曲の姿を残すことにより、サウンドトラックというアイデンティティを失うことなく最大限までミニマルを追求することに成功している、と言う事が出来るのである。

それにしても、ノイズ部分のきめ細かさは何度聴いても唸らせられる。軟弱なノイズ・ミュージックは聴きやすさを意識するあまり輪郭がふやけてしまい、掴みどころがなくなってしまうのだがこのアルバムはそうならない程度に尖っている。また、ただ刺激を求めるだけのノイズは心地よさなど欠片もないただの騒音となるのだが、このアルバムは細やかなノイズの音ひとつひとつを鑑賞できるだけの空間を持たせており、音の美をじっくり鑑賞させてくれる。サウンドは間違いなく尖っているのだが、あらゆる音が聴きやすさを意識して厳密に剪定されており、刺激に満ちた音でありながらもとても手軽に聴けるところが最高に素晴らしいアルバムだ。曲の展開が比較的分かりやすいことも、聴きやすさの助けとなっている。ノイズ・アンビエントの入門としても良いだろう。

しかも、こういうアルバムが「サウンドトラック」という文脈でリリースされているという事実が何よりもたまらない。サウンドトラック、言い換えれば劇伴音楽とは、それが添えられる作品あってこその音楽であり、純粋音楽と異なり単独では成立し得ない。しかし、ただの副菜ではない個性あるサウンドトラックというものがこの世には数え切れないほど存在しており、時にはその音楽自体を主菜としてあれこれ楽しむことも出来る。「自由がきかない」「所詮は添え物」と思われがちなサウンドトラックにおいて、これほどまでに作家性が発揮され、自由に解体されているという事実がいかに背徳的であり、また官能的であることか!おそらく、このアルバムが他のどんな作品とも関係せず、純粋な音楽アルバムとしてリリースされていたら、また違った評価をしていたと思う。「サウンドトラックでやった」からこそ、これほどの高揚感を生み出すのだろう。音楽に限らず、作品と呼ばれるあらゆるものを鑑賞する時にまずその出自を知っておくことは、楽しみ方を限定してしまうとも言えるだろうが、逆に言えば作品により深く斬り込むための武器となり、その作品の置かれた「文脈」に想いを馳せつつ堪能するための大きな助けとなりうるのである。