C87で買ったCDのレビュー、7本目はk-waves LABのアルバム「la malgrava peto」。キャリアの長いサークルですが、オリジナルCDは今作以前は長らくリリースされていませんでした。

k-waves LAB主催のKou Ogataはプロのアイリッシュ楽器奏者として有名で、ニコニコ動画やYouTubeに演奏動画を多数UPしていることでも知られています。同人活動も活発で、東方Projectを中心に多種多様なゲーム音楽の民族調アレンジCDを発表しています。

オリジナル曲はあまり作らないのですが、VOCALOIDにエスペラント語で歌わせた「la malgrava peto」は人気となり、ニコニコ動画で10万再生を超え”殿堂入り”を果たした他、商業流通のコンピレーションCDにも収録されています(→動画リンク)。そう、このアルバムにはこの曲が収録されており、アルバムの核を成しているのです。このアルバムでは、すべてのボーカル曲は「やまもまや」という方が歌われています。「まやろーやる」という名前で歌ってみたの活動をされていた方でもあり、この曲をKou Ogata本人とともにライブで歌ったこともあるそうです。



k-waves LAB / la malgrava peto

リリース: 2014/12/30
ジャンル: トラディショナル・フォーク・ポップス
販売: メロンブックス / とらのあな / あきばお~こく


アルバムは全11曲。うちボーカル入りが4曲、インストゥルメンタルが7曲となっている。ボーカル曲はすべて、ニコニコ動画でVOCALOIDに歌わせて投稿した楽曲であり、このアルバムではやまもまや(Yamamo Maya)という方が歌っている。また、「紀元の樹海」「la malgrava peto~ささやかな願い」の2曲は、歌詞がエスペラント語で書かれていることが特徴的だ。エスペラント語の歌詞と日本語の対訳は、CDの歌詞カードのほか各曲の動画やニコ動のコメントでも読むことが出来る。

k-waves LABの曲はとにかく聴きやすいことが特色だ。生演奏のアイリッシュ楽器をふんだんに用いた豪勢な編成でありながら、ポップスとして違和感なく聴くことが出来るのはひとえに編曲センスの賜物である。民族楽器だけで硬派な芸術を追求した音楽も非常に聴き応えがありそうで面白そうではあるのだが、この人の曲は民族楽器だけでなく、打ち込みのドラムスやストリングスも交えて、あくまでポップスの文脈に則ることにこだわって作られている。もちろん自らの演奏を聴かせることも大きな目的なのだが、それよりも「楽曲」を披露することを大前提とした、コンポーザーとしての挟持が込められている。このアルバムにおいて、演奏は楽曲を届けるための手段であるとはっきり線引きをしている事が、聴きやすくまとまった楽曲を聴いていると伝わってくるのである。同人音楽なのだから当然自分のために作るという側面もあるのだろうが、それでもこの作品は「リスナー」を強く意識した作りになっているように感じられるのだ。

同人音楽だけでなくニコニコ動画での活動が長いことも、自己の世界を追求するだけでなく「楽しく聴ける音楽」を指向する原動力となっているのかもしれない。ニコニコ動画やYouTubeに演奏動画も多数投稿しているのだが、複数の楽器を演奏して一つの映像にまとめて同時再生するエンターテインメント性の高いものであり、アイリッシュ楽器に詳しくなくとも観ていて楽しくなる。受賞歴も輝かしい「プロの中のプロ」が、ニコニコ動画や同人界隈で自らの腕前を惜しむことなく披露し、そこで生まれた活動(VOCALOIDのオリジナル曲等)がこうしてCDアルバムの形になったことはとても感慨深い。プロであれば全員ネット上や同人音楽で成功するとは限らない中で、自らの飯の種でもある「アイリッシュ楽器」という看板を偽ることなく自由な活動をコンスタントに続け、シーンにおいて確かなアイデンティティと様々な作品を残していく姿には、「la malgrava peto」の動画やアートワークで歌を口ずさみながら元気に歩みを進めてゆく少女を重ねずにはいられないのだ。このアルバムの成り立ちについての様々なことを考えていると、このアルバムこそがk-waves LAB / Kou Ogataの集大成であるとの印象がますます強まり、確信へと近づいていくのである。

最後になったが、このアルバムの収録曲はすべてオリジナル曲で、そのメロディーは当然すべてKou Ogataにより作られたものなのだが、「民族調の作り手」というイメージに良く合う哀愁の込められたものもあれば、生活の音が聞こえてきそうな明るいものまで実に多様だ。このことは、特に同人音楽シーンでひとつのシーンを築き上げるほどメジャーとなっている「民族調」というジャンル(カテゴリ?)に対し、多くのリスナーが持っているであろうある意味での「固定観念」「偏見」を取り除いてくれる、一陣の風になるのではないかと筆者はひそかに期待している。