C87で買ったCDのレビュー、10本目はきくお4作目となるVOCALOIDアルバム、その名もずばり「きくおミク4」。

2013年夏の「きくおミク3」から1年4ヶ月ぶりとなる、初音ミク歌唱のフルアルバムとなります。今作では、これまで以上にアルバム全体でのまとまりが強く意識されており、リリース直前に公開された数曲以外はほぼすべて新曲となります(ボーナストラック除く)。

きくおというミュージシャンはとにかく攻撃的な曲を作ります。音の打撃と洪水による”物理攻撃”、急展開する曲調や過激な歌詞世界による”精神攻撃”の2つを軸に、波状的にリスナーに迫りゆくオーラは唯一無二のセンスを感じさせます。しかし、今回の「きくおミク4」では音そのものの激しさは鳴りを潜め、代わりに曲の持つ世界観を緻密に練り込んでいます。結果として、おそろしく聴きやすいにもかかわらず、これまでで最も尖ったアルバムが完成したのです。



きくお / きくおミク4

リリース: 2014/12/30
ジャンル: エクスペリメンタル・ポップス
販売: Amazon.co.jp / とらのあな / BOOTH

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間違いなく、これまでの「きくおミク1~3」とは何から何まで違う作品だ。

キャリアを通して様々な音楽を吸収してきたきくおだが、このアルバムではそれら全てをうまく消化し、自らの作品の一部に出来ていることが伝わってくる。5曲目「Giant」は、ワブルベースの扱いが特に光る傑作だ。巨人を主人公にしたストーリーが展開されるのだが、これまでのきくお作品でもたびたび現れたワブルベースが今回は”巨人”の役割を与えられ、その雄大さと悲哀を同時に演出しており技巧的だ。8曲目「おばけの招待状」はベースラインが素晴らしい。ベースに拘るあらゆるポップス・ロックに引けを取らない出来栄えであるだけでなく、間奏ではこのベース以外ほぼ聞こえない静かなパートをそこそこ長めに設けているため、筆者の好みに最もクリーンヒットした。作曲者の自信を感じさせてくれる素晴らしい編曲だ。

9曲目「フラットライン」は、ブラックミュージックの香り深い異色の曲だ。曲全体にエフェクトを強く掛けており、かなり輪郭がぼやけているものの、そのビートには間違いなく”ソウル”が込められている。10曲目「マンダラ」は、もはや先人へのリスペクトと言っていいほどテクノポップ色が強い。シンセやらビートやら何から何までまさに少し前にシーンを築いたその音楽であり、宗教色すらにじみ出る壮大なサウンドスケープは奏でている風景を目の前に映してくれる。あたかも映画音楽のような情景描写力を持った音楽が、曲全体に渡り展開されるのである。しかもこの曲、前半はリスペクト色が強いのだが、後半できくお流のビートメイキングにストンと落とし込んでおり、そこまでの流れがあまりに自然で、聴き込めば聴き込むほど驚愕させられる。ある意味、このアルバム中で最も衝撃的な展開である。

ちなみにこのアルバムは、11曲目「無限の時間を与えましょう」までの約50分間が本編、残り4曲は既存曲のセルフリミックス等の”ボーナストラック”となる。最初の11曲はいずれも同じ哲学で作られているように感じられ、50分でひとつの曲、というよりひとつの組曲のような印象を受けた。世界観はどれも、一見優しそうだけどもよく見るとギョッとするものが隠されており、音楽自体が非常に聴きやすく作られているものだから、そこに仕込まれた毒ごと美味しく頂けてしまうのだ。あえて例えるなら、曲ごとの個性を演出した「きくおミク1~3」は”きくおカタログ”、アルバム1枚でトータルの世界を見せた「きくおミク4」は”きくお定食”と表現することが出来るだろう。「きくおミク4」はアルバム本編を聴き終えた時点で大満腹の大満足なのだが、この後に控えているボーナストラックがデザートというには少々刺激が強かったりするので油断できない。



12曲目「塵塵呪詛 - Second curse - (2014 Livemix)」、13曲目は「てんしょう しょうてんしょう (2014 Livemix)」、14曲目は「A happy death - Again - (幸福な死を 2014 Livemix)」と、これまで発表してきた楽曲のセルフリミックスとなる。"Livemix"と書かれている通り、DLライブ等で回すためにアレンジしたバージョンなのだが、イントロやアウトロを長めに取ったり、曲展開の起伏を大袈裟にしていたりとどれも非常に刺激的なアレンジがなされている。特に「てんしょう しょうてんしょう」は7分を超える大作となっており、筆者が最も好きな曲なのだが、テンポが速くなったり遅くなったりを繰り返すため最もノリにくい曲でもある(笑)。きくおはそこを踏まえた上でか、元曲の展開をさらに大胆なものにしているのでもう笑いが止まらない。次にきくおのライブに行く時までには、「てんしょう しょうてんしょう」が流れた場合に備えてこのLivemixを完璧に覚えておきたいところだ。・・・え?その頃にはまた新しいMixが出来上がっている可能性が?ハハハ、そんなバカな。しかしきくおならもしや・・・(以下略)。

そして濃厚なリミックス3曲を堪能した後に、全く予期しない方向からの衝撃がやって来る。15曲目「テクノロジーに夢乗せて」は、このアルバムの本当の意味でのラストトラックなのだが、長らくご無沙汰だった”明るいきくお”節が展開されている。一部のきくおリスナーは覚えているだろうか、リニューアル前のきくお公式サイトの”楽曲依頼”の項目を。そこには、AとBの2つのプランが提示されており、Bは”ソロアーティストとしてのきくお”を期待するクライアントのために攻撃的な曲を提供するプランなのだが、Aは可愛くてノリノリな商業ポップスを提供するプランなのだ。今でこそきくおはアーティスト路線に一本化しているが(実験的とは言ってたが)、ちょっと前まではこうしたポップミュージックも積極的に書いていたのだ。その”職業作家としてのきくお”を象徴する曲がこの「テクノロジーに夢乗せて」と言えるだろう。初音ミク7周年記念企画「MikXperience e.p.」への提供作品でもある。ボカロPとしてのきくおは、数々の代表作を挙げるまでもなく刺激的で個性的な楽曲を多数公開している。そんな中で、ボカロPとしてこうした「表のプラン」で楽曲提供したことがとても新鮮だったのを覚えている。曲の展開に合わせて作曲ソフトの性能が進歩し、音数がどんどん増えていく演出は聴いててワクワクさせられる。表の顔でも裏の顔でも、決して手を抜かないのがきくおという音楽家なのだ。「きくおミク」シリーズは、きくおの活動記録としての性格も持っているので、一見アルバムの雰囲気に合わなそうな曲でも余すことなく収録されているのだが、この曲もなるべく浮かない立ち位置で入れよう、という努力の跡が垣間見えて好印象を受けた。 

 

最後になったが、このアルバムに関しては、しーくの描いたジャケットイラストをあしらったアートボードなるグッズが作られている。CDやアナログ等のディスク媒体のメリットとして「インテリアとして部屋に飾れる」ことが挙げられる、と筆者は常日頃から考えているのだが、今回きくおとしーくはインテリアそのものを作ったわけだ。しかも個人で。ここからも、この「きくおミク4」というアルバムに関して、製作者の2人がサウンドだけでなくビジュアルでも大きな自信を持っていることがひしひしと伝わってくる。このアルバムに興味があって、お金と部屋の壁に余裕のある人は購入を検討してみてはいかがだろうか(→販売リンク)。