C87で買った作品のレビュー、今回はbakerさんのVOCALOIDベスト盤「changed man」です。
初音ミクブーム初期から現在に至るまで、足掛け7年以上ボカロPの活動を継続しており(創作活動自体はその倍以上続けていますが)、ベテラン中のベテランとも言えるbakerさんですが、これまで発表してきた主だった楽曲を網羅したベストアルバムは、同人でも商業でもリリースされていませんでした。そんな中、最初期の「celluloid」から現時点での最新動画「君が君が」までのVOCALOIDオリジナル12曲に、新曲「changed man」を加えたベストアルバムが、同人CDとしてついにリリースされたのです。
baker / changed man - baker vocaloid best 2007-2014
こうして曲目を眺めてみると、改めてbakerがシーンに刻んだものの大きさと、その時間の長さを再認識させられる。07年の「celluloid」「サウンド」は言うまでもなく初音ミクブーム初期を象徴する曲だが、アニメ調のキャラクターを意識しない”普通の音楽”も行ける可能性を示したという意味でもエポックメイキングだった。09年の「羽」は、ちょうどビクターからのメジャーデビューが決まった頃の曲だ。今は亡きレーベル・LOiDの全面バックアップの元でアルバム「filmstock」をリリース、交友のあったノッツ(若干P)のアルバムとほぼ同時期のリリースだったことも記憶に新しい。一切飾ることなく、bakerの生き様を音楽業界に叩き付けた貫禄の一枚だと筆者は今でも思っている。その後しばらくして何故かアルパカにハマり、二言目にはアルパカを推し残りの人生をアルパカとして生きる決意すら感じられた時期もあった。その経験は音楽にも活かされ、「ARPK」と「夏に去りし君を想フ」、そして”本編2曲+ボーナストラック11曲”という驚天動地のアルバム「AREPK」を生み出したのだった。13年の「君が君が」は、ベスト盤リリース時点でのオリジナル最新動画なのだが、これ以降はニコ動よりもSoundcloudの投稿数が増加しており、活動の主軸を移していることが確認できる。そして新曲の「changed man」。オリジナル曲は14年夏のアルバム「悪 EP」等もありそれなりに作っているのだが、VOCALOIDを使ってロック・ポップスを作ったのはおそらく久々だと思われる。
こうしてbakerの曲を語っていると、どうも曲自体よりもそれに付随する歴史や出来事に偏ってしまう。bakerという作家をリアルタイムで知っていて思い入れもそれなりにある筆者としてはある意味自然な事なのだが、音楽そのものについては語る機会があまりなかったので、ここで積極的に語っていこうと思う。bakerの楽曲は大きく3つのジャンルに分けられる。ロック、ポップス、そしてエレクトロだ。ポップスでは「carol」のようなノリノリな(?)曲もあるが、中心となるのは「celluloid」「カナリヤ」「もう一人の僕へ」「sample」等のバラード路線だろう。その歌詞は基本として後ろ向きであり、感傷と後悔で彩られた王道サウンドはJ-POPを知る人ならグッと来ることだろう。ロックは「サウンド」「羽」を筆頭に、オルタナ寄りの轟音が気持ちよく響く重めのナンバーが特に好みだ。他にも、バラード曲はポップスを軸としているがロックサウンドの比重が高いものが多く、どちらかと言うとロックとして認識している人も多いかもしれない。ちなみに筆者は両方の文脈で楽しんでいる。そしてエレクトロ。どちらかと言うと「EDM」と言った方がしっくり来るかもしれない。活動初期では作っていなかったが2010年に入り「gain」「般若心経エレクトロ」等でぼつぼつ投稿が増え始め、「ARPK」でついに転換点を迎えた。動画の内容は徹頭徹尾ギャグテイストで、多くのリスナーは”アルパカの曲”以上の認識をしていないかもしれないが、この曲と「夏に去りし君を想フ」はゴリッゴリのエレクトロとしても非常に気持ちよく聴けるため筆者は大好きだ。もちろん、真正面から勝負したエレクトロ・ナンバーであるところの「This love will not be successful」も掛け値なしにカッコイイのでおすすめである。ちなみに「ARPK」のボーカルは巡音ルカだが、あえて英語DBで日本語を歌わせるという迂遠な手順を取ることで更にギャグ路線を邁進しており、もうずるいとしか言いようがない。
このアルバムはあくまで「bakerがVOCALOIDとともに歩んだ道程の記録」であり、BMSまで含めた長いキャリアの中ではほんの一部でしか無い。しかし、シーンにとって欠かせないピースとなったbakerの活動履歴が、ここまで横断的に記録したアルバムは未だになかった事を考えても、このベストアルバム(シングルコレクションと言ってもいい)がリリースされた意義は大きい。だからこそ、筆者は声を大にして問いたい。なぜ今までこういうアルバムが商業流通で出なかったのかと。メジャーアルバム「filmstock」は当時の主だった楽曲をおおむね収録していていたが、いかんせん「celluloid」から2年程度しか経過していなかった上に、bakerはさほど多作というわけでもなかったから、「filmstock」はベストアルバムというよりオリジナルアルバムの色が強い作品だ。2014年も末に差し掛かり、ようやくオリジナル曲の数もある程度溜まった頃合いだと考えると、ベストアルバムを出す時期としては理想的だったのだろう。しかし、こういう節目のアルバムこそ、イベントの数日前にクロスフェード動画を投稿して適当に宣伝するのではなく、商業レーベルと組んでより多くの人に知らしめた上でリリースして欲しかった。
同人CDの欠点としては流通期間の短さが挙げられる。これからもbakerの音楽を知り、もっと深く触れようというリスナーは断続的に現れるだろう。そのための入り口として最適なのがベストアルバムなのだから、このCDを求めて通販ページを探したり即売会に行く人も決して少なく無いだろう。ベスト盤は、1枚のアルバムとしてだけでなく、作家の名刺・カタログとしての役割も期待されるものだ。しかし、同人作品はすべてのコストを作家が負うため、枚数が少なかろうとコストは決してバカに出来ない。したがって、安定した生産というものを望みづらいのだ。何枚刷るか、多めか少なめかを決めるのは博打以外の何物でもない。なので、リリースから数ヶ月で完売し、再生産もされないためその後に知った人はもう買えない、という悲しいすれ違いが同人音楽では無数に発生しているのだ。bakerのベストアルバムにはそうなってほしくない、と考えるのは独りよがりの杞憂なのだろうか。だが、同人音楽には「他人の都合に左右されない」という何にも代えられない大きなメリットがある。出したい時に出したいものを出すのは、決してベストアルバムとて例外ではない。同人CDとして出したいと思ったからこそのリリースなのだろう。そう考えることもできるので、bakerのVOCALOID曲が更に広まって欲しいと考える筆者としては本当に複雑な心境なのだ。
07年~08年の極初期しかbakerの曲を聴いていない人にも、アルパカとエレクトロでブイブイやってた頃に知った人も、「君が君が」が殿堂入りしたことしか知らない人も。そして、BMS時代しか知らない人も、逆にEDMにシフトした後の非VOCALOIDの活動しか知らない人も。「bakerのVOCALOID曲」のほぼすべてが分かるこのアルバムを、是非手に取ってほしい。そのタイミングは早ければ早いほどいい。同人CDとして世に出た以上、買えるうちに買わないといつ買えなくなってもおかしくないからだ。リリースされた時期にこのアルバムを知ることが出来た幸運に感謝し、機会を探して手に入れるための努力をして欲しいと思えるほど”存在価値”の高いアルバムだと筆者は強く思っている。
以下、アルバムの試聴動画と、ベストアルバムに収録されなかったものの筆者が大好きな曲、そしてつい最近聴いて大爆笑した曲を貼る。
初音ミクブーム初期から現在に至るまで、足掛け7年以上ボカロPの活動を継続しており(創作活動自体はその倍以上続けていますが)、ベテラン中のベテランとも言えるbakerさんですが、これまで発表してきた主だった楽曲を網羅したベストアルバムは、同人でも商業でもリリースされていませんでした。そんな中、最初期の「celluloid」から現時点での最新動画「君が君が」までのVOCALOIDオリジナル12曲に、新曲「changed man」を加えたベストアルバムが、同人CDとしてついにリリースされたのです。
baker / changed man - baker vocaloid best 2007-2014
こうして曲目を眺めてみると、改めてbakerがシーンに刻んだものの大きさと、その時間の長さを再認識させられる。07年の「celluloid」「サウンド」は言うまでもなく初音ミクブーム初期を象徴する曲だが、アニメ調のキャラクターを意識しない”普通の音楽”も行ける可能性を示したという意味でもエポックメイキングだった。09年の「羽」は、ちょうどビクターからのメジャーデビューが決まった頃の曲だ。今は亡きレーベル・LOiDの全面バックアップの元でアルバム「filmstock」をリリース、交友のあったノッツ(若干P)のアルバムとほぼ同時期のリリースだったことも記憶に新しい。一切飾ることなく、bakerの生き様を音楽業界に叩き付けた貫禄の一枚だと筆者は今でも思っている。その後しばらくして何故かアルパカにハマり、二言目にはアルパカを推し残りの人生をアルパカとして生きる決意すら感じられた時期もあった。その経験は音楽にも活かされ、「ARPK」と「夏に去りし君を想フ」、そして”本編2曲+ボーナストラック11曲”という驚天動地のアルバム「AREPK」を生み出したのだった。13年の「君が君が」は、ベスト盤リリース時点でのオリジナル最新動画なのだが、これ以降はニコ動よりもSoundcloudの投稿数が増加しており、活動の主軸を移していることが確認できる。そして新曲の「changed man」。オリジナル曲は14年夏のアルバム「悪 EP」等もありそれなりに作っているのだが、VOCALOIDを使ってロック・ポップスを作ったのはおそらく久々だと思われる。
こうしてbakerの曲を語っていると、どうも曲自体よりもそれに付随する歴史や出来事に偏ってしまう。bakerという作家をリアルタイムで知っていて思い入れもそれなりにある筆者としてはある意味自然な事なのだが、音楽そのものについては語る機会があまりなかったので、ここで積極的に語っていこうと思う。bakerの楽曲は大きく3つのジャンルに分けられる。ロック、ポップス、そしてエレクトロだ。ポップスでは「carol」のようなノリノリな(?)曲もあるが、中心となるのは「celluloid」「カナリヤ」「もう一人の僕へ」「sample」等のバラード路線だろう。その歌詞は基本として後ろ向きであり、感傷と後悔で彩られた王道サウンドはJ-POPを知る人ならグッと来ることだろう。ロックは「サウンド」「羽」を筆頭に、オルタナ寄りの轟音が気持ちよく響く重めのナンバーが特に好みだ。他にも、バラード曲はポップスを軸としているがロックサウンドの比重が高いものが多く、どちらかと言うとロックとして認識している人も多いかもしれない。ちなみに筆者は両方の文脈で楽しんでいる。そしてエレクトロ。どちらかと言うと「EDM」と言った方がしっくり来るかもしれない。活動初期では作っていなかったが2010年に入り「gain」「般若心経エレクトロ」等でぼつぼつ投稿が増え始め、「ARPK」でついに転換点を迎えた。動画の内容は徹頭徹尾ギャグテイストで、多くのリスナーは”アルパカの曲”以上の認識をしていないかもしれないが、この曲と「夏に去りし君を想フ」はゴリッゴリのエレクトロとしても非常に気持ちよく聴けるため筆者は大好きだ。もちろん、真正面から勝負したエレクトロ・ナンバーであるところの「This love will not be successful」も掛け値なしにカッコイイのでおすすめである。ちなみに「ARPK」のボーカルは巡音ルカだが、あえて英語DBで日本語を歌わせるという迂遠な手順を取ることで更にギャグ路線を邁進しており、もうずるいとしか言いようがない。
このアルバムはあくまで「bakerがVOCALOIDとともに歩んだ道程の記録」であり、BMSまで含めた長いキャリアの中ではほんの一部でしか無い。しかし、シーンにとって欠かせないピースとなったbakerの活動履歴が、ここまで横断的に記録したアルバムは未だになかった事を考えても、このベストアルバム(シングルコレクションと言ってもいい)がリリースされた意義は大きい。だからこそ、筆者は声を大にして問いたい。なぜ今までこういうアルバムが商業流通で出なかったのかと。メジャーアルバム「filmstock」は当時の主だった楽曲をおおむね収録していていたが、いかんせん「celluloid」から2年程度しか経過していなかった上に、bakerはさほど多作というわけでもなかったから、「filmstock」はベストアルバムというよりオリジナルアルバムの色が強い作品だ。2014年も末に差し掛かり、ようやくオリジナル曲の数もある程度溜まった頃合いだと考えると、ベストアルバムを出す時期としては理想的だったのだろう。しかし、こういう節目のアルバムこそ、イベントの数日前にクロスフェード動画を投稿して適当に宣伝するのではなく、商業レーベルと組んでより多くの人に知らしめた上でリリースして欲しかった。
同人CDの欠点としては流通期間の短さが挙げられる。これからもbakerの音楽を知り、もっと深く触れようというリスナーは断続的に現れるだろう。そのための入り口として最適なのがベストアルバムなのだから、このCDを求めて通販ページを探したり即売会に行く人も決して少なく無いだろう。ベスト盤は、1枚のアルバムとしてだけでなく、作家の名刺・カタログとしての役割も期待されるものだ。しかし、同人作品はすべてのコストを作家が負うため、枚数が少なかろうとコストは決してバカに出来ない。したがって、安定した生産というものを望みづらいのだ。何枚刷るか、多めか少なめかを決めるのは博打以外の何物でもない。なので、リリースから数ヶ月で完売し、再生産もされないためその後に知った人はもう買えない、という悲しいすれ違いが同人音楽では無数に発生しているのだ。bakerのベストアルバムにはそうなってほしくない、と考えるのは独りよがりの杞憂なのだろうか。だが、同人音楽には「他人の都合に左右されない」という何にも代えられない大きなメリットがある。出したい時に出したいものを出すのは、決してベストアルバムとて例外ではない。同人CDとして出したいと思ったからこそのリリースなのだろう。そう考えることもできるので、bakerのVOCALOID曲が更に広まって欲しいと考える筆者としては本当に複雑な心境なのだ。
07年~08年の極初期しかbakerの曲を聴いていない人にも、アルパカとエレクトロでブイブイやってた頃に知った人も、「君が君が」が殿堂入りしたことしか知らない人も。そして、BMS時代しか知らない人も、逆にEDMにシフトした後の非VOCALOIDの活動しか知らない人も。「bakerのVOCALOID曲」のほぼすべてが分かるこのアルバムを、是非手に取ってほしい。そのタイミングは早ければ早いほどいい。同人CDとして世に出た以上、買えるうちに買わないといつ買えなくなってもおかしくないからだ。リリースされた時期にこのアルバムを知ることが出来た幸運に感謝し、機会を探して手に入れるための努力をして欲しいと思えるほど”存在価値”の高いアルバムだと筆者は強く思っている。
以下、アルバムの試聴動画と、ベストアルバムに収録されなかったものの筆者が大好きな曲、そしてつい最近聴いて大爆笑した曲を貼る。
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