44歳というあまりもの若さで逝ってしまった、ロシア人歌手のOriga(オリガ)さん。「攻殻機動隊 Stand Alone Complex」の主題歌が突出して有名ですが、ほかにも数多くの作品を残されました。

その独特の美しさを持つ歌声は、1994年のデビュー以来ずっと変わっていません。彼女の歌声を歴史の彼方に押しやってしまわないように、彼女の足跡を忘れないための4枚のアルバムをご紹介します。



攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX Solid State Society O.S.T

リリース: 2006/11/22
音楽: 菅野よう子
販売: TOWER RECORDS


とは言うものの、やはり「攻殻機動隊」そして「菅野よう子」とのタッグは極めて多くのリスナーに衝撃を与えたものと思われます。最初の主題歌「inner universe」と2番目の主題歌「rise」は、ロシア語と英語が複雑に絡み合った非常に難しい歌でしたが、Origaさんは難なく歌い上げています。ここではあえて、そのどちらも収録されていないアルバムをご紹介します。「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」のTVシリーズが2シーズンとも大好評のうちに終了し、その後発表されたOVA(?)「Solid State Society」のサウンドトラックです。オープニング主題歌「player」とエンディング主題歌「date of rebirth」ともにOrigaさんが歌っているのですが、実は主題歌を両方とも担当されるのはシリーズ通してこの作品だけなのです。そしてこのアルバムは、音楽面でも面白いポイントがあります。「player」はなんと女性ヒップホップデュオ・Heartsdalesが参加しており、その結果楽曲にこれまでにない力強さが生まれています。そして「date of rebirth」は、Origaさんとしても菅野よう子さんとしても非常に珍しい、混じり気のないハードなロックナンバーなのです。このアルバムは、お二方の作風を知っている方ほど挑戦的に映るのではないでしょうか。「inner universe」と「rise」しか知らない人にこそ聴いて欲しい、”攻め”のサウンドトラックです。


Origa / 水のまどろみ

リリース: 2004/11/21
作詞: 濱田理恵(→Wikipedia
作曲・編曲:梁邦彦
配信: iTunes Store


Origaさんをきっかけに、初めてロシア語の歌を聴いたという方も多いことでしょう。アニメ関連やそうでない曲も含め、数々の楽曲をロシア語で歌うOrigaさんですが、もちろん日本語の歌も披露されたことがあります。中でも特に聴いていただきたいのが、この「水のまどろみ」です。なかむらたかし監督のTVアニメ「ファンタジックチルドレン」のエンディング主題歌であるこの曲は、Origaさんとしては異例なことに全編日本語なのです。もちろんのこと、日本語でも彼女の独特の歌唱に一切のぶれはありません。ロシア語と英語でしか彼女の歌を聴いたことがない方は是非。ちなみに、Origaさん自らが作詞されたロシア語バージョンも存在するのですが、CDシングルは長らくプレミア状態となってしまっているのに対して、iTunes Storeでは日本語・ロシア語の2曲をピンポイントで購入することが出来ます。こういう時には、在庫の変動に気を使わなくていい「MP3屋さん」のありがたみを実感しますね。


Ar nosurge Genometric Concert side.蒼 刻神楽

リリース: 2014/03/05
販売: Amazon.co.jp
配信: iTunes Store


Origaさんはアニメだけでなく、ゲーム作品でも歌われています。「FINAL FANTASY XIII-2」では「ヒストリアクロス」をはじめ5曲でボーカルを担当されていますが、筆者が是非おすすめしたいのはこのアルバムです。この「アルノサージュ(Ar nosurge)」は、ガストによる「アルトネリコ」シリーズの続編となるゲームなのですが、こうしてサウンドトラックとは別に劇中歌のアルバムを別途リリースしており、その中身がシリーズ通して極めて凝っていることで有名です。Origaさんは、2枚同時リリースの中の「蒼盤」で「em-pyei-n vari-fen jang」「yal fii-ne noh-iar」の2曲を歌われています。Origaさん自身が中心となって作詞された、何語ともつかないただ語感のなめらかさに感覚を奪われる揺るぎない美しさがこの2曲には込められています。ゲームとほぼ同時にリリースされたこの劇中歌集、発売日は2014年3月5日であり、Origaさんの音源としてはかなり最近のものとなっているのですが、これ以降の音源リリースは調べる限りありませんでした。大好きなゲームシリーズに大好きな歌手が参加すると知り、当時の筆者は狂喜乱舞していたものですが、その作品がまさか歌手の遺作と言っても過言ではない位置に来るとは、まったく想像だにしませんでした。


Origa / The Best of ORIGA

リリース: 1999/10/14
配信: iTunes Store


そしてそして、アニメやゲームとは関連のない、純粋なオリジナルアルバムを数多くリリースしていることを忘れてはいけません。1994年のデビューアルバム「ORIGA」から、2008年リリースで現時点での最新オリジナルアルバム「THE SONGWREATH」まで、実に7枚のアルバムをリリースされたOrigaさん。その活動前半の作品から選ばれたのが、このベストアルバムです。1曲目「風の中のソリテア」は、実に時代を感じさせるゴテゴテのJ-POPサウンドですが、そのボーカルがあの聞き慣れた優しい声であると分かると途端に安心感が芽生える気がします。しかし、明らかにポップスに寄った曲はそれほど多くはなく、あの妖精のようなきらびやかでちょっと癖のある歌声がアルバム全体を優しく包み込みます。中でも特に彼女の歌声が光るのが、「川よ、私の川よ」です。ロシア民謡をほぼアカペラで歌ったこの曲、旋律を歌うボーカルだけでなくバックコーラスも彼女の歌声なのです。この美しさ、強さ、そして冷たさを言い表す言葉はなく、リスナーはただその雄大な川の流れを呆然と見つめるしかありません。そして、彼女自身が大河そのものになり、徐々に包まれていくかのような安らかな心地になるのです。

Origaさんは、どうやら今年(2015年)にニューアルバムをリリース予定だったらしく(→公式サイト)、リリース出来なくはないという記述を見るに、いくつかの音源は既に録音されているようです。彼女の新曲を聞くことはもはや叶わないのではと思っていた矢先の朗報であり、”可能な限り彼女の希望に沿った形でリリースする”とのことでしたが、いちリスナーとして私が出来る事といえば、ただ新しいアルバムが出ることを信じて待ち、そして彼女の歌声を決して忘れないためにこうして語り継ぐことで、その歌声が永遠に生きてゆくよう祈り続ける事、ただそれだけなのでしょう。