C87で買った作品のレビューを再開!今回は「すこっぷ」さん7作目となるオリジナルアルバム「Forgive Forget」です。

「マリオネットシンドローム」「指切り」「アイロニ」等の曲で知られるボカロP・すこっぷさんは、女性の精緻な心情を表現した卓越した歌詞で有名ですが、作編曲のスキルも極めて安定しています。時に哀愁ある、時に温かい、時に感傷的に奏でるサウンドは一見バラけているように思えて、実はそのすべてに一本軸の通った「節」を感じさせ、「すこっぷの作るポップス」は確固たるブランドとして成立しているのです。

ちなみに、このアルバムに収録されている曲はニコニコ動画やYouTube等には事前にアップロードされておらず、すべてが新曲となっています。



すこっぷ / Forgive Forget

リリース: 2014/12/30
ジャンル: ポップス・ロック
販売: Amazon.co.jp / とらのあな

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すこっぷのアルバムを毎回聴いていて凄いと思うのは、これだけ一貫した作風を貫いていながら、未だに”同じような曲”に出会ったことがない、ということだ。すこっぷは2008年からボカロPとしての活動を開始しており、動画投稿もアルバムリリースも2015年現在に至るまでコンスタントに継続している。制作したオリジナルアルバムは既に7枚を数え、それ以外のオリジナル曲もかなりの数に上ると思われるのだが、どの楽曲も独自の物語を持っており、同時にサウンドメイクも百人百様の個性を放っているのである。確かに”雰囲気が似通っている曲”は多数あるのだが、メロディラインもベース進行も曲の数だけ存在するため、すこっぷという作家の引き出しの多さにただひたすら感心する他ないのである。

また、すこっぷの曲はジャンル分けが難しい。極めて広く括れば「ポップス」か「ロック」と呼べるのだが、そこから少しでも細かく分けようとするとどうもうまくいかないのだ。すこっぷの曲にはさまざまな音が詰め込まれている。1曲目のタイトル曲「Forgive Forget」は、マーチング調のスネアがパレードのような金管の豪奢な音を呼び出し、アルバムのファンファーレの役割を果たしている。2曲目「イデア」は、イントロのゴシック風の寂れた音像をそのまま引きずって、陰鬱だが綺麗なロックサウンドが展開される。サビが非常に開放感に満ちており曲全体の暗さと対照を成しているなのだが、この展開が自然すぎるため聴けば聴くほど唸ってしまう。3曲目「フロムゴースト」は一転、パンク路線の尖った曲だ。ボーカルも初音ミクからGUMIに交代した影響か、サウンドが一気に人間味を帯びて生々しく突き刺さる。4曲目「諦観」は、詞も曲もタイトル通り徹頭徹尾悲観的だ。フルートとベースの絡み方が、悲劇を気取った世界観に実によく合っている。5曲目「ミスターパペッツ」はまたガラッと雰囲気を変え、まるで人形劇のようなおどけた楽しい音楽である。しかし歌詞が自省的で哲学的であるために、ただの明るい曲にならないところはやはり”すこっぷらしさ”を感じる。6曲目「絶望ごっこ」はオルタナ路線のクールなロックサウンドに目を覚まさせられる。好みの路線ではあるのだが、サビで明るさを演出するためにメロディの裏に入れられたシャラシャラしたシンセは無い方がよかったと思った。この曲はポップさを一切取り除いて、最後までクールでいた方がしっくり来る気がしたのである。7曲目「十二月のカゲロウ」は、このアルバム唯一の純粋なバラード。やわらかいギターサウンドとピアノが包み込む心地よさは、いつ聴いても素晴らしいものだが寒い冬に聴くと一層染みる。



これだけ多くの音を使いこなし、作品に込めてしかもそれを意識させないという、すこっぷの作曲スキルはかなり高度なものだと言えるだろう。思いついた音を無節操に取り入れるのではなく、それぞれの曲が持つ物語に合ったサウンドを的確に選び、組み立てていくその腕前はこれまでの作品を通して全く鈍っておらず、極上の味わいに仕上がったいくつもの作品世界を存分に堪能できる素敵なアルバムだと筆者は考えている。

さて、そういえば1曲だけまだ語っていない曲があった。それは、筆者がこのアルバムの中で最も驚愕し、また最も好きな曲である、最後の8曲目「For you」だ。自分の知る限りでは(なので当てにはならない)、すこっぷの曲がここまで重くなったことは無いと思う。何が重いのか。ギターサウンドだ。曲の前半は、アコギとピアノを軸としたシンプルな曲なのだが、後半で化ける。もはやエモと言っても過言ではないギターの轟音が支配する怒涛の展開には、言葉に出来ない感情の爆発を肌で感じさせてくれる。あらゆる言葉を駆使して詞を紡ぎ、あくまで”歌もの”として言葉とメロディに重きを置いたサウンドメイクを手がけてきた(と筆者が考えていた)すこっぷが、この「For you」では言葉を減らし、バンドサウンドの奔流にすべてを委ねているのだ。そのような姿は、控えめに言って全く予想していなかった。すごい。すごく良い。伝えたいメッセージをすべて詞に載せてきたすこっぷが(これも筆者の勝手な考えである)、歌ではなく音にメッセージを託した瞬間はまさに鳥肌ものだった。この作り方はすこっぷとしては例外的で、もしかしたら気まぐれのようなものだったかもしれない。しかし、歌い手と背景の音の役割を交代させるというダイナミックな曲構成は、むしろすこっぷの詞世界を別の側面から補強し、その作品へよりいっそう没入させることに成功していると思う。もしその気になったら、またこのような曲を作って欲しいと切に願っている。